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RPG−8

[307]  たる  2008-09-02投稿


月の光りも届かない厚い雲が空を覆っている。数少ない電灯の下を通る時ちらと見上げると、うっとりとした目の彼がいた。彼は私の肩を抱いたまま電灯の真下で立ち止まり、優しく微笑んで私を見つめた。その瞳には怯えた自分の姿がある。どこかで見た目だと思ったら、昼間、自分の髪を手にした時のレイと同じだ。あの時はすぐに元に戻ったのに。
「はな、してっ」
力を振り絞って突き放した。離れはしたが、彼は1,2歩下がっただけ、カナは反動で尻餅をついた。一瞬息が止まり、せきが止まったときには彼は目前に迫っていた。うっとりした表情のままカナを組み敷く形を取った。顔が近づいたと思った瞬間、カナは彼の両肩を思いきり押した。思いの外力が出て、彼は背中を打ちつけてうめき声を上げた。苦痛の表情にはもう恍惚の色はない。ほっとしたところでレイの声がした。
「カナ!」
先に彼を見つけ、そして同じく尻餅をついている私を見つけた。怒りで顔が真っ赤だった。我に返った彼の胸倉を掴むと怒鳴った。
「お前、何してんだ!カナに、カナにっ」
「レイ、待って、違うの。やめて」
10回くらい繰り返して、やっとレイはクラム−−レイが叫んだ彼の名前だ−−を放した。息が上がっている。反対に私は目眩も治まったしふらつかない。レイが来たとたん元気になったらしい。
「もういい。カナ、戻るよ」
言われた通りにするしかなかった。

「母さんとの話を聞いたんだろ」
レイが静かな声で言った。
「何と言われようともあたしがカナをビヨドに連れて行くよ。他人になんて任せられない。カナは・・・あたしはカナの友達だろ。黙って行くなんてするなよ」
泣いているのかと思った。クラムには飛び掛かって勇敢だったレイが弱々しい。私は何度も謝った。
家に着くと、2人とも何年も歳をとったように見えた。お母さんは私を見ると立ち上がって強く抱きしめた。また私は何度もごめんなさいと繰り返した。
「もう18歳だものね」
離れ際、私の耳元で呟くように言った。レイの気持ちが通じたようだった。

3日後、私とレイは村のゲートに立っていた。同時に足を踏み出して、緊張した、けれど晴れやかな顔で村を出た。
私は旅着の上にマントを、レイは所々に細工がある、ほとんど私と変わらないように見える旅着型の鎧、それに同じマントを羽織っている。
旅が、始まる。

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