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奈央と出会えたから。<211>

[606]  麻呂  2008-09-05投稿

『先生!!待ってください!!』



なんと、その声の主は――





秋田谷 ユカの声だった――



ユカ‥‥‥?!



まさか、ユカが渋川を呼び止めるなんて思わなかった――



ただ――



ただ、あたしはユカの口から発せられるであろう次の言葉を待つだけだった。



『ん?!何だね秋田谷?!』



ユカの声に、振り返る渋川は、



一瞬、眉間にシワを寄せたかと思うと、


愛用の銀縁メガネのズレを手で直した。


『先生。木下さんの言っている事は本当です。いきなり因縁をつけたのも、先に手を出したのもタツヤです。

それと以前、タツヤが聖人にサバイバルナイフで切りかかろうとした事があったのも事実です。』



ユカの瞳は真っ直ぐだった――



その延長線上には――



ポカンと口を半開きにしている渋川の姿があった。



『あ‥‥え―‥‥。今の話に間違いは無いな?!秋田谷?!』



『はい。間違いありません。』



渋川は、しどろもどろだった。



あたしが反論した時は、決して信じようともしなかったくせに。



あっさりとユカの言う事を信じてしまった。



この時は、その理由を全く予想するコトが出来なかった。



いずれは嫌でも、その理由を知る事になるのだけれど――



さっきからシーンと静まりかえった教室――



聖人も、黙ってユカと渋川のやりとりを見ていた。



『と、とにかくっっ‥‥。北岡とタツヤの件について、今、第三者である秋田谷の話を、聞かせてもらった。

北岡の正当防衛は認めるが、一応平等に、タツヤにも事情を聞く事にする。』





バタンッ―ー‐



最後は何か急いでいるかの様に、



乱暴に教室の扉を閉め、出て行った渋川。



きっと、バツが悪かったのだと思う。



渋川が出て行ったら――



1-3の教室に――



また何時もの空気が戻った。

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