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奈央と出会えたから。<218>

[556]  麻呂  2008-09-12投稿

渋川は、言葉こそ丁寧に、慎重に選んで話していたケド、



銀縁メガネの奥の目からは、



相変わらず、“冷たさ”しか感じられなかった。



恐らく、“悪かった”なんて、これっぽっちも思っていないに違いない。



これも、将来“教頭”になる為だと思えば、簡単に演じられる演技よね。





タツヤは、ただ黙って渋川の直ぐ後ろに立っていた。





『渋川。出世するってのも、なかなか大変なもんだよな?!
ま、せいぜい頑張ってくれ。

未来の“教頭先生”サンよォ!!』



聖人の言葉に、さすがの渋川の作り笑顔も崩れた。



キッ―ー‐



そんな渋川を鋭い眼光で睨み付ける聖人。



『タツヤ、行くぞ。』



渋川が言った。



渋川とタツヤは、あたし達の横を通り過ぎて行こうとし、



あたし達は、渋川達と入れ替わる様に、保健室の中へ入ろうとした――



その時――



『北岡。おぶっている秋田谷は、どうかしたのかね?!』



渋川が聖人に言った。



『何でもねぇよ。ただの貧血だ。』



聖人は、そう答え、保健室の中に入ろうとしたけど、



言い足りない事があったのか、



また、渋川の方へ向き直った。





『あっ‥そうそう。
秋田谷の父さんは、PTA会長で、教育委員会の偉いヤツとも交流があるみたいだけどよォ――

だからって、秋田谷に媚びる様な真似だけはすんなよな!!
いい大人がよ!!』


聖人にそう言われた渋川は――



一瞬、聖人を睨み付けたが、



直ぐにタツヤと一緒に行ってしまった。




コンコン――



ユカをおぶっている聖人の代わりに、



あたしは保健室の扉をノックした――



保健室の扉を開くと――



保健室独特の消毒薬の匂いがした――





『保健室のセンセいる?!』



聖人が言った。



『はぁい。あらっ?!今日は、同じ渋川先生のクラスのコが多いわね?!』





保健室の篠原先生は、優しくて綺麗なヒトだ。



まだ20代後半だっていう話。



去年、結婚したばかりだけど、



それまでは、男子生徒の間でファンクラブが作られる程の人気ぶりだった。

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