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年下の彼 ?奈落

[410]  マリリン  2008-09-18投稿
「ソープで働いてみないか?」その男は、放心状態で、微動だにしない理子に、もう一度、同じフレーズを繰り返した。
それでも、何も反応しない理子に、
「お前、どうしたんだ?」と不審そうに尋ねてきた。
風俗勧誘の男にしては、なかなか良心的な人間だったのかもしれない。

奇妙な取り合わせの二人は、深夜のガードレールに腰掛けて、二言三言、言葉を交わした。その時間と空間までは、全く縁もゆかりもなかった二人が…

理子が、彼氏に裏切られたという内容の話を、ポツリと呟くと、その男は、一瞬、僅かな同情の色を、瞳に閃かせたかと思うと、「お前も、可哀想な女だな」と一言だけ告げて、去っていった。

その後、理子は、どの道を、どう歩いて、家路にたどり着いたか、全く、記憶がない。

真夜中の大都会は、指を、三本、五本と立てて、誘ってくる男達の、悪の巣窟のような、おぞましい限りの場所だった。

理子は、ただただ身震いした。

しかし、彼女は、これ程、修復不可能なほどに、自分自身が傷付いているという事実によって初めて 「私は、哲也を本当に愛していたんだわ」と改めて気付かされた。と同時に、我ながら驚いていた。「いつの間に、こんなに彼を愛してしまったのかしら?」
付き合い初めた頃は、確かに、彼女は、失恋の痛手を、哲也の優しい抱擁で、埋めたいだけだったのだ。「あの優しい彼の腕は、どこに行ってしまったんだろう?
私の、微妙な心の不安や、未来への恐れが、彼を、こんなふうに変えてしまったのかしら……」理子は、自分自身をも責めた。そして哲也の度重なる裏切りから数ヶ月、嵐のような季節が、二人の間を吹きすさび、木の葉が赤や黄色に美しく色づき、舞い散る頃、理子は、自分の身体に、ある異変を感じた。

それは、彼女の肉体に、新しい命が宿ったサインだった。

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