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星の蒼さは 119 第七話外伝  『玉座』

[460]  金太郎  2008-09-19投稿
「失礼します」

重厚なデザインのドアをノックする音が聞こえ、壮年の男の声がする。

「どうしました?」

レイチュルは応えた。

アレ?と間の抜けた反応が返ってきた。
彼はおそらく、返ってきた声が女のモノであったのに驚いているのだ。

「今はいらっしゃいません。私が責任をもって取り次ぎましょう。用件は?」

「あ、いや、これはエドワーズ大統領閣下に直接お見せしなくてはならない大切な書類で…」

ドアの向こうから困惑した声がする。

「でしたら、後でもう一度来て下さい。とにかく閣下は会えません」

レイチュルは引き出しから拳銃を抜いた。これ以上しつこいようなら黙ってもらうしかない。

「わかりました。では二時間後にまたお伺いします」

カツン、カツンと大理石の床を鳴らしながら足音が遠ざかって行く。

レイチュルは拳銃を引き出しにしまった。

そして執務室とつながる大統領の寝室に入る。

薄暗い寝室の奥にあるベッドに“彼”は寝そべっていた。

寝息を立てる事もなく。

ただ、何も映すことのない虚ろに開かれた綺麗なグリーンの両目が天井をぼんやりと眺めていた。

レイチュルは“彼”の横に腰掛け、半開きの口に自分の唇を重ねた。

もう決して吸い返してはこない唇は青黒く変色し、乾ききっている上に、硬く凝り固まっている。

レイチュルは自分の水分を与えるように“彼”の唇全体を濡らすと、ゆっくりと口を離した。

「閣下…優しい人……私が愛した…クロード・エドワーズ…」

窓の外から入るライトがエドワーズの死に顔を白く照らす。

唇が光を反射して、ぬらっと光った。

その輝きを見て、レイチュルはとうとう堪えきれなくなり、シャツのボタンを外しながら彼の身体に馬乗りになった。

顔が熱い。下腹部が熱い。全身がグツグツ熱を帯びていく。

我慢ならなかった。

抱き締められる事はないとわかっていても、求める肉体はストップが利かない。

彼女はエドワーズの死体からネクタイを剥ぎ、ワイシャツを引き裂いてその冷たい胸に顔を、身体を押しつけた。

かつて毎朝聴いた鼓動も、荒い息遣いも返ってはこない。

レイチュルは更に彼を掻き抱いた。

最愛の人、クロード・エドワーズは彼女の為すがままだった。

ヌルっと右手に不快な感覚を覚え、見つめた先には手の平にべっとりとついた真っ黒に変色した血液。

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