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摩天楼 その11

[372]  river  2008-09-21投稿
それから毎日マーチは顔を出した。リリィは彼がやって来る度に笑顔で迎えた。固い座席に疲れてしまったらクッションを敷いてあげた。食事も用意してあげた。

そんなある夕方
静かな街にピアノの音が響いた。廃車置き場からだった。そこから酒場は比較的近いのでピアノの音はわりとはっきり響く。入り始めた客と一緒にココも聴き入る。やさしい音。
「なんて曲だったっけ、これ」
「さぁ…音楽には疎いからなぁ」


廃棄されていたピアノに座ってリリィは演奏していた。鍵盤は幾つか欠落しているが、それを感じさせないほど見事なものだった。
マーチはピアノの背中にもたれて座りこんでいる。

優しい旋律は脳内を流れるようにくるくる廻る。暮れ行く空をぼんやり眺めている。

「鍵盤が無いと弾きにくいな。退屈しのぎになるからいいんだけど」
リリィが演奏をやめて言った。

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