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夜に咲く華〜その1〜

[535]  岬 登夜  2008-09-21投稿
紅(べに)は吉原生まれの吉原育ち。廓(くるわ)の若旦那だった紅の父親が売られて来た紅の母親を見初め、すぐに紅を身篭ったため紅の母親は遊女にならず廓の若女将の座についた。

元々武家の出の紅の母親は身体が弱く、紅を産んで暫く後この世を去る。
残された紅は父親と厳しい祖父母の元育っていった。

紅が12になったとき父親の再婚話が出て父親は鶴と言う一回りも歳の違う若い後妻をもらう。

若い鶴は何かと紅に焼きもちを焼き、紅に辛く当たってばかりいた。
見兼ねた祖父母は紅の父親と鶴に吉原の外に小物の店を持たせた。

祖父母は才覚の無い息子に見切りをつけ紅に婿をとりこの遊郭を継がせようと考えていた。紅は亡くなった母親に似て気立てもよく頭も回った。鶴が余り遊郭の事をよく思ってなかった事もあり紅は遊郭「紅華楼」の正式な跡取りとして育てられる。



店に明かりが入るこの時間が紅は好きだった。女を買いに来た男達の声。呼び込みの口上。芸者の奏でる三味線や、小唄があちらこちらの遊郭から聞こえ出す。綺麗に着飾った遊女達の白粉の香。吉原が1番活気づくこの瞬間が紅は好きだった。

「紅お嬢さん。そんなところから見てたらまた女将さんに叱られますよ」
背後から声がした。紅付きの女中、妙(たえ)の声だ。

妙は貧しい農家の出で借金の肩代わりにここに売られて来た。余り器量もよくない妙は店に出しても客がつかないと紅の祖母はもっと格下の遊郭に売り下げようとした所を話し相手が欲しいと紅にせがまれて歳も近い事もあり紅付きの女中として働く事となった。

妙は事あるごとに紅を助け、庇い今では紅の良き相談相手になり、紅も暇のあるときは妙に読み書きなど手ほどきしていた。妙は日頃から
「お嬢さんがいなかったら私は今頃最低の夜鷹小屋で客をとらされ野垂れ死にしてました。綺麗な身体のままこうしてお嬢さんに使える事が出来て私は本当に幸せです。この恩は返しても返し切れません」
と言うが紅の方こそ遊郭の娘と言われ友達も無いなか出来た初めての友達だったので妙を大事に思っていた。

「婆には黙っておいて。ここから外を見るのが楽しいの」
紅が覗いていたのは遊女達の後ろの屏風の間。客の顔や外の様子が分かり紅のお気に入りだった。
「いいですけど、その女将が探しておいでですよ」

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