摩天楼 その16
ゆりちゃん
あなたがいなくなってしばらくたちました
いまどこでなにをしているの?
ぶじでいるのなら
はやくあいたいです
ママはきがくるってしまいそうです
ラジオからか細い声が聴こえる。
リリィの母親の声。
「寂しいと思わないの?」
ココが話しかける。リリィは寂しくなどなかった。ただひとつのことを除いてだが。
彼女が周囲から逃げ出した理由もなかった。裕福な家庭で今まで何不自由なく生活してきたし、人付き合いも悪くなかった。悩み事も大してなかった。
それなのに、何故突然家を飛び出すことがあろうか。
それも辿り着いた先はスラム街。
市長が最も嫌う。自分が今ここに居ると知ったら。きっとマーチやココが。嫌な予感がする。
今すぐ廃車に戻りたくなった。
「そうだ、ピアノは弾いてくれないの?」
リリィは顔を上げた。
「この頃弾かないから、寂しいって、お客さんが」
虚ろな目をしているリリィを心配している。
「弾きたい気分にならないんだもの」
頬杖をつく。どこかが痛かった。
「いつまでもこのままじゃだめなのね」
指が鉛のように重く感じた。
あなたがいなくなってしばらくたちました
いまどこでなにをしているの?
ぶじでいるのなら
はやくあいたいです
ママはきがくるってしまいそうです
ラジオからか細い声が聴こえる。
リリィの母親の声。
「寂しいと思わないの?」
ココが話しかける。リリィは寂しくなどなかった。ただひとつのことを除いてだが。
彼女が周囲から逃げ出した理由もなかった。裕福な家庭で今まで何不自由なく生活してきたし、人付き合いも悪くなかった。悩み事も大してなかった。
それなのに、何故突然家を飛び出すことがあろうか。
それも辿り着いた先はスラム街。
市長が最も嫌う。自分が今ここに居ると知ったら。きっとマーチやココが。嫌な予感がする。
今すぐ廃車に戻りたくなった。
「そうだ、ピアノは弾いてくれないの?」
リリィは顔を上げた。
「この頃弾かないから、寂しいって、お客さんが」
虚ろな目をしているリリィを心配している。
「弾きたい気分にならないんだもの」
頬杖をつく。どこかが痛かった。
「いつまでもこのままじゃだめなのね」
指が鉛のように重く感じた。
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