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夜に咲く華〜その8〜

[347]  岬 登夜  2008-09-30投稿
紅と健吾の婚礼から四年が過ぎた。

祖父母は店の全てを紅達夫婦に譲り、知り合いの田舎で隠居生活を始め、あやめの年期明けも間もなく、「紅華楼」にとって変化の年となる春。

紅は二十歳になり評判の美人女将として店を切り盛りしていた。
健吾との仲は結婚当初から上手く行かず、あの屈辱の日から一度もその身体を健吾に触れさせる事はなかった。「紅華楼」に全てを注ぎ健吾の事はないがしろにした。

健吾は家を勘当同然に出され、紅には相手にされず、離れで日がな一日暮らし、博打や女にと自堕落な生活を送っていた。


紅の使いで吉原の外に出ていた妙は健吾の姿を見かけた。そのとたん息を飲んだ。隣に鶴がまるで恋女房の様に健吾の腕に腕をからめ歩いていたのだ。

あの二人…?


妙はこの事を紅に話したほうが良いかどうか悩んだ。結局、紅の気を悪くするだけだからと自分一人の胸に納めた。


それから数日後、紅の父親が血相を変えて店に飛び込んできた。
「大変だ! 全てやられてしまった」

手には何か握られている。紅はそれを取り上げ読んだ。

それは、小物屋の土地、建物の売却証書と鶴の書き置き。


旦那様、長らくお世話になりました。さようなら



「あいつだよ。お前の亭主の健吾と駆け落ちしたんだ。早朝、店の若いのが一緒に出ていったのをみてる。紅、お前あの二人の事知らなかったのかい?」
父親に問い詰められ紅は口を開いた。
「とっくに噂は耳に入ってたけどまさか駆け落ちとはね。お父様には気の毒だけど私は清々するわ。もう顔を合わせなくて済むなら」


父親はガックリ肩を落として店の外に出ていった。それに合わせるかの様に店の入口がざわついている。
「なに、お父様。まだ何か様?」
帳場から顔を出した紅の前に数人の柄の悪い連中が並ぶ。

「あんたがここの女将かい?」
連中を押しのけ一人の男が前に出る。
「俺は山柴組の若頭、連二郎。旦那はいるかい?」
紅は怯まず淡々と答えた。
「いないわよ。たった今駆け落ちしたらしいわ」

連二郎は紅を上から下まで眺め
「こんな綺麗な奥さん捨てて駆け落ちなんて勿体ない」
伸びて来た連二郎の手を払い、紅は言った。

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