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四番街の天使2

[406]  ケィ。  2008-10-01投稿
「煤けて汚れて折れ曲がって、誰も俺が天使だなんて思わない。」「…ごめんなさい。」

天使は、涙を流した。その声はか細くて、この街に吹く穏やかな風にさえも、消されてしまいそうだった。
天使は彼を知っていた。


街で逢ったら、彼は天使のくせに、いつもイタズラばかりしていた。大人に怒られても知らん顔で、反省の色がないと叱られたら、それって何色?と食ってかかり、また叱られていた。
エア・ポートに立つ天使に向かって、
「それって楽しい?」と無遠慮に聞いたのも、まだ少年だったころの彼だった。

「他に、出来ること無いから。みんなみたいに、羽根も無いし。」
天使はうつ向いて言った。そうとしか答えられない自分が恥かしかった。
だから彼がそれを聞いて、どんな顔をしたのか、天使は知らない。気づくと、彼は天使の顔を下から覗きこんでいて。

「何で?わかんないじゃん。透明の羽根があるかも。」

そう言って笑った。純粋な、生まれたばかりのような、天使の笑顔で。


男は笑っていた。残酷に。苦しそうに。

「あんたが押したんだ。俺は飛びたくなんてなかったのに、あんたや大人が、無理やり飛ばせようとした。大丈夫だからって、笑って突き落としたんだ。」

その声は淡々として、疲れ切っていた。
その言葉を、これ以上聞くのが辛かった。

「ごめんなさい。」
「もういい。」

それは、謝罪しても無駄、という意思表示。

「もっと端っこに行きなよ。今度は俺が押してあげる。
大丈夫だよ。もう寂しくなくなるから。」

声は変わらず淡々としていたけれど、その顔にもう、笑みはなかった。何の感情も無い、冷静な態度。きっと、天使が死んでも、眉ひとつ動かない。
天使は、男が命ずる通りに、一歩踏み出す。

「…ずっと、待ってたんだ。」

また一歩。

「君が戻って来るの。ずっと、待ってた。」

また一歩。

「君はきっと生きてるって、信じてた。」

また、一歩。

「遠くで君がよろめくのを見ても、信じてるしかなかった。巧く飛べなくても、きっと誰かが助けてくれるって…」

天使は、足を止めない。

「ごめんね。」

また、涙が溢れて来るのを止められなかった。そんな権利はないのに。

「助けてあげられなくて。かばってあげられなくて。…傷つけて、ごめん。」


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