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Killing Night Freaks/EXTRAChapter.『海潮辰哉の奇妙な冒険』

[328]  夢の字  2008-10-02投稿

「……っ、らぁッ!」

気合い一発。声と共に打ち出された右拳は正確に猟犬の頭蓋を潰し、眼窩から目玉と血液を零して絶命した。これで、全部だ。追って来た猟犬三匹を、なんとか全て撃退した。細く長いを漏らし、構えを解いた。拳に疼痛。当たり前だった。素手で骨のような固いものを砕けば反る衝撃が拳を傷める。
何か巻いて来れば良かったな。そう考えながら顔をしかめなて手を振り、海潮は背後の人物に話し掛けた。

「大丈夫かよ、オッサン」

尻餅をついた状態の男性は無言で頭を上下に揺らし、海潮の言葉に肯定を返す。みっともないその姿に、けれど海潮はにっかと歯を剥いて笑った。

折角保護した生存者だ。無事な事は素直に嬉しい。

「さて、と。どうするかな」

もと居た位置から随分と離れてしまった。既に道も分からない。代わり映えのない風景と言うものはそれだけで自分の位置を誤認させるものだ。厄介な事この上ない、と海潮が小さく悪態を吐く。

「一応聞くけどな、オッサン、さっきの犬に見覚えは?」

返事は否定。恐怖に声も出ないのか、首を横に振る動作で伝えられた。だろうなぁ、と言う言葉にはさほど失望の色は無い。それもそのはず。海潮には“知っていれば儲けもの”程度にしか思ってなかったからだ。

「まぁ、それはそれとして、責任持ってしっかり助けてやるよ」

運が良い、と海潮は思う。運良く行方不明者が見つかって、運良く助けることが出来た。迎撃の為に踏み止まったせいで身体には細かな傷が刻まれたが、どれも致命傷には至っていない。運が、良かったのだ。この時までは。

手を伸ばし、男性を立たせる。まだ不安そうな顔をしていたので、安心させるつもりで笑ってみせた。すると頼りないながらに笑みを返してくる。

これが可愛い女の子なら、良かったんだけどな。不謹慎だと分かっていながらもそう考え、しかし頬を更に歪めた時、

「が」

声。快音。飛び散る飛沫。それら全てが同時に起こった。生み出される赤が視界を埋め、男性から失われたナニカが地面に転がる。頭、上半分、まだ眼球が残っている、肉片――――


「!」


弾かれたように海潮が駆け出す。一歩目からフルスピードで、けれど蛇行しながら山中を駆け抜ける。フェイントを混ぜながらの逃走のさなか、恨めしげに呟いた。


「くそっ! ツイてねぇ……っ!」

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