十字路とブルースと僕と俺 2
林の中は真っ暗だった。ふたりが持ってきた懐中電灯がなければ、右も左もわかったものではないだろう。だが、その暗闇が逆にお互いの視線や表情を隠してくれたお陰で、おれと父は、いつも以上に会話を弾ませていた。その前にやっていた花火の興奮を引きずっていたせいもあっただろう。ふたりは近くにいながらも大きな声でお互いに声をかけ合い、どちらかが虫を見つければ、そこへ駆けつけ、ふたりで必死になって虫と格闘した。結局、この時にとれたのはカブトムシとクワガタが一匹ずつだった。真っ暗でお互いの顔はよく見えなかったはずだが、おれも父も終始笑顔だったと記憶している。変な音が聞こえてきたのは、父が「もう帰るか」と言った直後のことだった。その音は近くから聞こえるようでもあり、遠くから聞こえるようでもあった。
おれが「なに、この音?虫?」と父に訊ねた。
「ん?ああ、よく鳴いてるね。この林の中だけでも何千、何万といるだろうからね」と父は言った。
「違うよ。虫の鳴き声じゃなくて、このバネみたいな音と泣いてるような声?音?」と、おれは半信半疑で言い返した。
しばらく父は、耳をすませ黙っていた。だが父は、「うぅ〜ん…。虫の鳴き声は聞こえるけど、他には何も聞こえないなあ」と、少し困ったような声を出した。
「今も聞こえるかい?」
帰り道、父は何度もおれに聞いてきた。そのたびにおれは「うん」と頷いたり、「ホントに聞こえないの!?」と、言い寄ったりした。林道を抜け、おばあちゃんの家がみえてきても、その音は近くも遠くもならず、ずーっとぼくの耳に聞こえていた。ぼくはふと、今歩いてきた道をふりかえった。音はその夜、ずっと止むことがなかった。
おれが「なに、この音?虫?」と父に訊ねた。
「ん?ああ、よく鳴いてるね。この林の中だけでも何千、何万といるだろうからね」と父は言った。
「違うよ。虫の鳴き声じゃなくて、このバネみたいな音と泣いてるような声?音?」と、おれは半信半疑で言い返した。
しばらく父は、耳をすませ黙っていた。だが父は、「うぅ〜ん…。虫の鳴き声は聞こえるけど、他には何も聞こえないなあ」と、少し困ったような声を出した。
「今も聞こえるかい?」
帰り道、父は何度もおれに聞いてきた。そのたびにおれは「うん」と頷いたり、「ホントに聞こえないの!?」と、言い寄ったりした。林道を抜け、おばあちゃんの家がみえてきても、その音は近くも遠くもならず、ずーっとぼくの耳に聞こえていた。ぼくはふと、今歩いてきた道をふりかえった。音はその夜、ずっと止むことがなかった。
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