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小さな物語

[494]  ケィ。  2008-10-03投稿


ひらひらと、降り始めた雪を見上げながら。


その先の灰色の雲を睨みながら。



バグは白い息を吐いた。



寒さのせいで、彼の耳が真っ赤に染まっても、手袋の下で指先が凍えるように冷たくても、彼はそうしていた。


 頭の奥までキィン、と痺れてきた時、後ろから声がした。
「バグ、いつまでそうしているつもり?」

アンナだった。
 バグにとって母親のような人。

「もう中に入りなさい」


 バグは答えない。頑に口を結んで、空を睨んでいる。



 アンナはため息をつき、この頑固な、たった八歳になったばかりの小さな少年を、どうやって連れ戻したものかと、思案した。




不意に、彼は口を開いた。



「ねぇ、アンナ。人は何の為に、生まれて来るの?」



 それは、孤児院の子供たちが、皆一度は口にする疑問だった。

「みんな、神様に望まれて生まれて来るの。もう帰りましょう?」

「じゃあどうして簡単に死んじゃうんだ?」



昨日、ティナという、三歳の女の子が死んだ時も、彼は同じことを聞いた。


「神様が望まれたことではないわ。けれどもティナは、きっと天国で幸せに暮らせる筈よ。」


 アンナは、その時と同じ言葉を繰り返した。
 いつだって、彼女はそうだった。きっと幸せになるとか、神様が見守ってくれてるとか。


 アンナの言葉は美しい。
 けれど、バグは真実が欲しかった。




 大人はいつも、本当の答えを教えてくれない。




「僕は帰らない。僕が怒っていることを、神様に認めさせるまで。」



― Fin.

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