コロセウム
円く切り取られた空の下で。
新たな血が流される度、歓声が湧いた。
誰かが倒れる度、人々は醜悪に顔を歪ませ、狂喜した。
彼等に見下ろされる奴隷達の、表情は見えない。
誰もが、使い古された、みすぼらしい、鉄の仮面を被っていた。
身に付けている物も、ボロ切ればかりで、とても服とは呼べない。
その血の赤だけが、どこまでも紅く、美しかった。
新たな奴隷が二人、引き出された。
やはり鉄の仮面を被っていた。
向き合う二人は、遠目から見る観衆の目にも、同じくらいの年格好に見えた。
体型も殆んど変わらない。
まだ年若く思える、未熟そうな二人を見て、観衆の誰かはヤジをとばした。
誰かは応援を。誰かは卑猥な冗談を。
口々に囃したてた。
主催者が高らかに、ショーの開始を告げる。
二人は互いに、重い剣を構えた。
拙い手付きで、互いに打ち合う。一撃、また一撃と。剣戟を重ねた。
しかし、どちらにも血が流れない。示し合わせたように、打ち合うだけ。
観衆は焦れていった。主催者は焦りだした。彼は弓兵達に、構えるように指示を出した。
その様に、奴隷の片方が焦ったように剣を振り回した。
それは相手の仮面に弾かれ、その脇腹に、赤が弾ける。
腹を裂かれ、紅い血を吹き出しながら、彼はよろめいた。
そして、古くなった鉄の仮面が、彼の顔からずり落ちた。
その素顔は、異国の、まだ幼さの消えない、少年のそれだった。
目を見開き、口元は渇えた者のように、あえいでいた。
刹那、大量の血を吐き、彼は地に沈んだ。
歓声が、上がる。
残った方の奴隷は、呆然と立ち尽くしていた。最後の一撃の為に、彼の仮面は半分欠けてしまっていた。
そこには、何の表情も無かった。
何もかも無くしてしまった瞳が、虚ろに、目の前で倒れている、もう動かない、自らによく似た顔を映していた。
少年は目を閉じた。
呼吸だけが、彼がまだ生きている事を証明した。
― The End.
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