BAD GIRLその?
彼女は、俺に言った。
「私を連れて逃げて」
俺には、どうする事もできなかった。何より彼女自身が、本当にそれを望んでいるとは思えなかった。
鳥小屋で、自分にすがる彼女を抱えて、俺は間抜けに立ち尽くしていた。
全て、一年も前の話だ。
「借り?借り…ねぇ。何か貸してたかしら」
チェルシーはゲームを楽しむように、口の中で言葉を転がす。
「アレかしら。『貴婦人は午後に乱れる』」
「いや、それは借りてないっす」
「じゃあ『濡れた女教師・体罰しちゃうぞ』」
「違うし。つーかアンタ、そんなん読んでるのかよ…。イメージ台無しだな」
「あら、私ってそういう女よ?」
彼女は煙草の灰を灰皿に落とした。
本当にいい女っていうのは、そんな仕草もサマになる。
趣味趣向は危ういようだが。
「そういうのダーイスキだし、誰とでも寝れちゃうの。
アナタを誘惑したのも、ただの気まぐれよ。何とも思っちゃいなかったわ、アナタの事。ここでの暮らしだって、別に辛くも何とも無いし、同情される理由はないわ。
それなのにこんな所まで来るなんて、バカね」
クールに言い切って、俺に一べつもくれない。
「オマケに顔もタイプじゃ無いし」
そこ関係ねーだろ。
今それいらないだろ?
「帰りなさい。私は、アナタなんか待ってなかったわ」
言ってる事は一々辛辣だが、声は諭すように優しくつき放す。大人のオンナって奴になったのか、ただ演じてるだけなのか。
いや、彼女から見れば、俺が今だに鳥臭いガキなだけか。
ともかく、帰れと言われて帰ったのでは、本当にガキの使いだ。
こっちは濡れた女教師ならぬ濡れた警備服を我慢して着ているのに、何のアピールもしないのではお話にならない。
「俺はアンタを連れ出しに来たわけじゃない。
アンタが、自分で出て行くんだ」
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