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パラノイア亭

[571]  雛祭パペ彦  2006-06-12投稿
 トリガラスープの旨そうな香りに誘われて、青年は、その店を初めて訪れた。
「てめぇ! 何しに来やがった」
 無愛想な店主は、もとよりケンカ腰だった。
「ラーメン、食いに来た」
 少し圧倒されながらも、青年は答える。
「うちは、ラメーン屋だ」
 と、店主。
「なにさ、ラメーンって?」
 と、青年。
「ラメーンは、ラメーンだ」
「じゃ、それ食わせろ」
 店主の対応にブチ切れた青年は、わざと乱暴な口調で言ってみせた。
「ラメーンは、食いものじゃない」
 負けじと、店主も乱暴に答える。
「じゃあ、ラメーンって何だ」
「うるさい黙れ!」
「客に向かって、黙れとは何だ!」
「何だとは、パンダの親類だ」
「あ、この人、狂ってる!」
 青年は、あ然とする。
「狂ってない」
「いや、狂ってる」
「狂ってないもん!」
「狂ってるもん!」
 なぜか子供のケンカじみてきたのがたまらなくなり、青年は慌てて店の外へと飛び出した。
「あ、食い逃げ!」
「え? さっき、ラメーンは食いものじゃないって言ってたのに」
 青年は、必死で弁解する。
「うるさい、食い逃げ野郎!」
 店主は、必要以上に大声で騒ぎたてる。
「おれは何も食ってないぞ」
「いや、食った」
「食ってない」
「食ってない」
「え?」
「確かに、貴様はラメーンを食ってない」
 この時はじめて、店主の表情が緩んだ。
「わかっていただけましたか」
「うむ。わかった」
 和解のムードが、両者の間に漂いはじめる。
「わかれば、よろしい」
 よせばいいのに、青年は偉そうに言ってみせた。
「何だと!」
 お約束のごとく、再び、店主はブチ切れた。

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