Killing Night Freaks/Between Chapter2 and 3『あの人は今』-3
樋泉杏華は躊躇わない。先程の高威力の魔術を間近で視認しながら、それが結界を貫き向かいの山を刔ったのを認識しながら、それでも身体を跳ねさせて魔術師に飛び掛かった。腰からナイフを抜き放ち、逆の手で腿のカードホルダーから奥の手の術式符を引っ掴んで距離を詰める。
「殺す!」
強く土を踏んで身体に制動を掛け、慣性の法則で前へと倒れそうになる上体の勢いを載せてナイフを投擲する。一直線に魔術師の眉間へと向かった刃は、けれど金属音ひとつで弾かれた。魔術師の手に有るもの、術式符を寄り合わせて創られた符剣によって、だ。しかし杏華は構わずに、返す動きで左手の符をばら撒いた。宙に舞う数枚の符。ひとつひとつが拳大の雹になって魔術師に殺到する。が、それは魔術師の眼前で砕け散った。簡易結界だ。ある程度の魔術を無効化する。
「殺す、殺す、アンタは殺す!」
「まるで獣だね。謹みがないよ。淑女ならもっとおしとやかにしないと」
「五月蝿いッ!」
吠え、新たに抜いたナイフで切り掛かる杏華を、魔術師は手にした符剣で受け、いなす。姿勢を崩した杏華の隙だらけの背中に蹴り。弾き飛ばして距離を取った。すかさず取り出した術式符を放ち追撃を加える。
「……くッ!」
弾き飛ばされた杏華は踏み止まらずに転がり、追撃の炎球を回避した。小規模な爆発が大地を穿ち、生じた爆風で吹き飛ばされたが、致命傷は避けた。振り返り様にナイフを投げ、次の符を取り出そうとしていた魔術師を牽制する。
「相変わらずやるね、君」
必死の形相の杏華に対し、魔術師は平然とそう告げる。どこまでもマイペースに、ことりと可愛らしく小首を傾げて疑問を発する。
「でも、こないだボク君を殺さなかったっけ? おかしいよね。ねぇ、なんで生きてるの?」
杏華は答えない。魔術師の一挙手一投足に注目し、突き崩す隙を捜す。
「……ああそか、君、もう死んでるのか」
「っ!」
図星を突かれ、杏華の肩が一度だけ大きく震える。その反応に満足したように魔術師は頷き、
「成る程ね。道理で首落としても生きてたわけだ」
「……」
「死人。よく聞く話だけど、実際見るのは初めてだね」
答えない。杏華は口を噤んだまま、相手の出方を伺っている。魔術師は微笑みながら、
「じゃ――燃やし尽くしても生きてるかどうか、試してみようか」
視線に、死線を篭めた。
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