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夜に咲く華〜その31〜

[396]  岬 登夜  2008-10-21投稿
そして、五年の年月が立ち…。



連二郎は落ち着きなくうろうろ歩き回る。

手伝いに来ていた妙が笑う。

「落ち着いてください、旦那様。間もなくですよ」

妙がそういい終わらないうちに襖の奥から元気の良い赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。

「ほら、生まれた」

妙は急いでお湯を運ぶ。


しばらくすると産母がでてきた。

「おめでとうございます。女の子ですよ。二人とも元気ですよ。中に入って見てください」

連二郎は慌て中に入る。小さな塊がもごもご動いている。

「かわいいな。紅にそっくりだ」

妙に促され恐る恐る赤ん坊を抱く。

「女の子なら名前は決めてあったの。華、紅華楼の華よ。いいかしら?」

連二郎は笑った。

「良い名前だ。華、お前は今日から華だ」



この十年後。吉原大火で紅華楼は全焼し、永く続いた吉原の盛栄も幕を閉じる。


紅と連二郎は華を連れて異国の地に渡る為、船に乗り込む。


「お母様。この船はどこに行くの?」

紅は優しく微笑み答える。

「オランダという国よ。船の旅は長いからお父様と言葉の練習をしましょうね」

連二郎は紅を見る。

「いいのか?後悔しない?」

紅は答える。

「吉原の女はしたたかで強い夜に咲く華よ。それに…華にとってもそのほうが良いわ」


船は汽笛を上げ港を出る。

港では妙夫婦とその子供が手を振る。


「さようなら、お嬢様。帰って来るまで宿はお預かりしておきますから。いつでもお戻りくださいね」


「もう、妙ったら退職金がわりなんだからもらっておけばいいのに」

紅は苦笑する。


そして船は沖に向かい小さく見えなくなった。




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