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―Never Land― 5.

[562]  ケィ。  2008-10-23投稿
 ナガセは手渡されたマグカップを冷ややかに見下ろした。

 イェンは自分のカップを手にテーブルの向かいの席に座り、さりげない調子で口を開いた。

「飲むといい。気分が落ち着くから」

「…ココアで?精神安定剤の方が確実なんじゃないの」

 イェンの穏やかな眼差しが、逆にナガセの胸の内にザワザワとしたさざ波をたてていた。
 何故だか、眼鏡の奥にあるそのトパーズの様な瞳を台無しにしてやりたくなって、意味も無く彼に反抗した。

「嘘じゃないさ。私も子供の頃、兄弟と喧嘩した後は温かいココアを飲んで仲直りしてたんだ」

「そんな単純な子供と一緒にされたくない」

 にべも無い態度に、イェンは苦笑した。

「確かに単純だったな。玩具の取り合いだったり、夕飯のオカズの取り合いだったり、さすがに女を取り合った時はココアは効かなかったけど」

 イェンはその話に一人で笑い、ココアをすすった。

「その人どうかしたの?」

 ナガセの口から問いが漏れた。
 あまりにたわいも無い話にウンザリしたのかと、イェンが正面を見ると、その子供は探るような眼で彼を見ていた。

「どうもしないよ。喧嘩別れしただけさ」

 ナガセは、そう、と短い感想をこぼし、それきりまた不機嫌に黙り込んだ。
 その様を見据えながら、イェンが静かに聞いた。

「君は、両親に会いたくはないの?」

「どうして?あなたが、兄弟に会いたいから?」

 そう切り返したナガセの表情には、子供特有の無邪気さは何処にも無く、冷たい刃に似た鋭さを感じさせた。

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