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―Never Land― 7.

[510]  ケィ。  2008-10-23投稿
「貴方まだアカツキ=ナガセの担当やってたの?」

 イェンがデスクで書類を見ていると横から、珈琲が差し入れられた。
 ジェシカ=ヨハンソンがそういった事をする事は滅多に無く、イェンは眼鏡をかけなおして、彼女の顔をまじまじと視た。

「何よ?」

「いや」

「気持ち悪いわね?それより、そろそろあの子の担当誰かに代わって貰った方がいいわ」

「珍しいね、君が人の仕事に口を出すなんて」

 イェンの呑気な受け答えにMs.ヨハンソンは眉をしかめた。

「アタシは本気で忠告してあげてるの。あの子は、頭が良過ぎる。それに、」

 苛立たしげに髪を掻き上げた。

「孤独過ぎるわ。私達の様な存在が手を差しのべても、苦しみが増すだけよ」

「言っている意味がよくわからない」

「私達は、仕事としてあの子に接しているだけ。親代わりにはなれないわ」

「だから君は、あの子から逃げたのか?」

 Ms.ヨハンソンは渋面をつくった。

「あの子が逃げたのよ。私は3日間もあの子を捜し回ったわ」

「フラレた訳か…悪い」

 Ms.ヨハンソンの剣呑な眼差しがイェンを射た。彼女にしてみれば、痛い記憶だったに違いなかった。

「ナガセに必要なのは家族なのよ。決して裏切られる事も、壊れる事も無い家族。彼をありのまま受け入れてくれる場所。

だけど、それを求めるにはあの子は余りに、余計な事に気づき過ぎる」

 イェンは先日のやり取りを思い出した。

――『ウソツキ』

 ナガセとは無関係だった故に、彼が隠そうとした事実に、あの子供は牙をたてた。

 そんな子供がもし、自分に何らかの害意をほんの一瞬でも抱かれたなら、即座にその人間を拒絶するだろう。

 イェンは珈琲に口をつけた。甘党の彼には、少し苦かった。

「心配してくれてありがとう。だけど私達は、…確かに問題は多いが、上手くやっているよ」

 Ms.ヨハンソンは呆れた様にため息をつき、イェンのデスクに背を向けた。

「…アタシだって、そう思ってたわ」

 その声には疲労が色濃く漂っていた。


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