―Never Land― 8.
ナガセは、今日は背中に羽のような物を着けて、プカプカと宙に浮かんでいた。
「ヨハンソンに会ったね?」
「同僚だからね」
玄関で苦笑するイェンを、ナガセは逆さまの体勢で睨み上げるように見下ろした。
「誤魔化そうとしても無駄だよ。香水の匂いがする」
「そんなに色っぽい関係じゃないんだけど。本当に匂う?」
肩や背広の襟の匂いをかぎ、首を捻った。
「嘘だよ。嘘に決まってるじゃない。何でわかんないの?」
ナガセが、今度は空中で肩をすくめて見せた。
イェンはその理解不能な言動にため息をついた。
「じゃあ何故、私が彼女に会ったって?」
「今日は火曜日だから。彼女、いろんな家庭をまわるけど、火曜日は大体デスクワークでしょう」
成程、と納得するが、それだけでナガセが彼女の名を出すとは思えなかった。
「彼女は、君を…」
「この間はごめんなさい。僕に関係無い事だから黙ってただけなのに、嘘つき呼ばわりして」
ナガセはイェンを遮って唐突に話を切り換えた。口にしているのは謝罪の言葉だが、気をそらそうとしているのが見え透いていた。
だからこそイェンは、真っ直ぐにナガセの目を見て伝えた。
「Ms.ヨハンソンは、君の事を心配していたよ」
ナガセは答えなかった。悪戯を叱られた子供みたいに、口をへの字に曲げて床へ降りて来た。
そのままずっと黙ってしまい、その日一日口を開かなかった。
「ヨハンソンに会ったね?」
「同僚だからね」
玄関で苦笑するイェンを、ナガセは逆さまの体勢で睨み上げるように見下ろした。
「誤魔化そうとしても無駄だよ。香水の匂いがする」
「そんなに色っぽい関係じゃないんだけど。本当に匂う?」
肩や背広の襟の匂いをかぎ、首を捻った。
「嘘だよ。嘘に決まってるじゃない。何でわかんないの?」
ナガセが、今度は空中で肩をすくめて見せた。
イェンはその理解不能な言動にため息をついた。
「じゃあ何故、私が彼女に会ったって?」
「今日は火曜日だから。彼女、いろんな家庭をまわるけど、火曜日は大体デスクワークでしょう」
成程、と納得するが、それだけでナガセが彼女の名を出すとは思えなかった。
「彼女は、君を…」
「この間はごめんなさい。僕に関係無い事だから黙ってただけなのに、嘘つき呼ばわりして」
ナガセはイェンを遮って唐突に話を切り換えた。口にしているのは謝罪の言葉だが、気をそらそうとしているのが見え透いていた。
だからこそイェンは、真っ直ぐにナガセの目を見て伝えた。
「Ms.ヨハンソンは、君の事を心配していたよ」
ナガセは答えなかった。悪戯を叱られた子供みたいに、口をへの字に曲げて床へ降りて来た。
そのままずっと黙ってしまい、その日一日口を開かなかった。
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