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―Never Land― 8.

[503]  ケィ。  2008-10-24投稿
 ナガセは、今日は背中に羽のような物を着けて、プカプカと宙に浮かんでいた。

「ヨハンソンに会ったね?」

「同僚だからね」

 玄関で苦笑するイェンを、ナガセは逆さまの体勢で睨み上げるように見下ろした。

「誤魔化そうとしても無駄だよ。香水の匂いがする」

「そんなに色っぽい関係じゃないんだけど。本当に匂う?」

 肩や背広の襟の匂いをかぎ、首を捻った。

「嘘だよ。嘘に決まってるじゃない。何でわかんないの?」

 ナガセが、今度は空中で肩をすくめて見せた。
 イェンはその理解不能な言動にため息をついた。

「じゃあ何故、私が彼女に会ったって?」

「今日は火曜日だから。彼女、いろんな家庭をまわるけど、火曜日は大体デスクワークでしょう」

 成程、と納得するが、それだけでナガセが彼女の名を出すとは思えなかった。

「彼女は、君を…」

「この間はごめんなさい。僕に関係無い事だから黙ってただけなのに、嘘つき呼ばわりして」

 ナガセはイェンを遮って唐突に話を切り換えた。口にしているのは謝罪の言葉だが、気をそらそうとしているのが見え透いていた。
 だからこそイェンは、真っ直ぐにナガセの目を見て伝えた。

「Ms.ヨハンソンは、君の事を心配していたよ」

ナガセは答えなかった。悪戯を叱られた子供みたいに、口をへの字に曲げて床へ降りて来た。
 そのままずっと黙ってしまい、その日一日口を開かなかった。


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