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銀の青年

[488]  紅月 蒼  2006-06-14投稿
僕の母国は滅んだ。今も夢に見る光景を思い出し、銀髪の青年は何度目かのため息。
「十回目」
横から声をかけたのは、緑の羽をもつ精霊。名前はシルフ。風の精霊だ。
「また何か思い出してんだろ?ったく、最強の魔法使いのくせにさ」
呟きながら、碧の瞳がじっと見る。片目は瞳と同色の前髪で隠れているが、不機嫌な様子は分かる。
「最強なんて、欲しくてもらった称号じゃないよ」
紅茶を飲みながら、フィルは面倒そうに答えた。銀の髪にダークブルーの瞳。すっきりと整った顔には、辛そうな笑み。シルフは気がつかないよう。
「最強なんて、僕には重すぎるよ…」
小さく呟いたとき、石作の暖炉から紅い炎の羽をした精霊。そして流しから水の羽の精霊まで出てきた。
「ランプが揺らいでるな。フィル、誰か来るかもしれない」
紅い精霊、イフリートは眉を寄せてフィルに言ったが、答えは小さな笑い。
「あの、フィル?私に出来る事は有る?今日は元気が無いから…心配なの」
水の精霊、ウンディーネは青い瞳に不安の色を滲ませていた。
「ごめんね。女の君に悲しい顔させるなんて、男らしくないか」
クスクスと笑い、フィルはランプを見た。
「イフリート。揺らいでるランプの火を消してくれる?」
「いいのか?誰が入るか分からないだろ」
その言葉に、フィルは笑みをむける。
「二十四にもなれば、何が入ろうと気にしなくなるものだよ」
この場に入れるなら、入ってくれば良い。
フィルの居る所は小さな店。石作の暖炉と窯があり、アイボリーの壁にはいくつかのランプ。店は次元の狭間にあり、見えるのは魔力の有る者だけだ。魔女に魔法使いなど、限られた者。
イフリートがランプの火を消すと、その下に扉が現れる。
ゆっくり開いた扉を、フィル達はじっと見た。
久しぶりに入ってくるのは、いったい誰なのか。
そう思っていたフィルは、入ってきた青年を見て目を見開いた。
「…ライ、エン」
フィルの澄んだ声に、相手も驚きの顔。
長い黒髪に紫の瞳の青年。
「まさか…フィル、なのか?フィル・ラグナ?」
信じられないというような声に、フィルは小さくうなずいた。
「君こそ。ライエン・ウィザーで合ってる?幽霊じゃないよね?」問いかけに青年はうなずく。       「国が滅んだ日、てっきり死んだと思ってた」
落ち着いた声のフィルは、青年を精霊達に紹介する。
「ライエン・ウィザー。僕の従兄弟」

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