私と僕
私は逃げる。『私』は『僕』であり、『私』は私だ。そして丘の向こうまでの逃避行を続ける。
何回も、何回も。丘を越えてもその向こうには丘があって、私はその丘の向こうまで逃避行を続ける。
脱力感。そして虚無感が私を襲う。
『僕』が『私』に問い掛ける。
「ねえ、何で逃げるの?いくら逃げてもいつまでも続くんだよ?意味があるの?」
「何で?解らない。ただ逃げなきゃいけないんだよ、私達は」
「じゃあ、何から逃げてるの?」
そんなの解るはずない。私は気付いたときから逃げていて、今も逃げている。ただひたすらに。
足が痛んでも、肺が張り裂けそうになっても、私は歩を緩めることは無い。
ただ、もう既に走ることは止めている。疲れてきたのが私にも解る。
「少しは休憩しなきゃ。体がもたないよ?」
「嫌。絶対に私達は逃げ切ってやる。ほら、奴らが来た!」
私達のすぐ後ろに、奴らが来ている。目では見ることが出来ない。でも、それを感覚で捕えることは出来た。
それはとてつもなく悍ましく、貪欲で、逃げなければいけないものだった。
走り出そうとした私の足が、縺れる。
奴らが私に躍りかかる。
捕まる!嫌だ!こんな奴らに捕まりたくない!
気がついたとき、私はコンクリートの上に寝そべっていた。
「此処はどこ?ねえ、『僕』、此処はどこなの?」
「僕は此処にいるよ」
私の目の前に立っている影。それは私の中にいた『僕』だった。
その影はいびつな形をしていて、明らかに人には見えなかった。
「違う!『僕』はそんなんじゃない!」
私はもう泣き出しそうだった。私が逃げていたものは『僕』で、『私』自身だと気付いてしまったから。
逃げようとする意思に反して、私の身体はうまくいうことを聞かない。
「きっと、もう僕らは逃げる必要はないんだよ。本当にお疲れ様だね」
『僕』は優しく『私』に声をかける。
「嫌!嫌だ!違う、そんなの違う!」
私はそう叫ぶと、全速力で走り始めた。
その時、気のせいであって欲しいけど、『僕』の舌打ちが聞こえた。
「君が全部いけないんだ。今まで何人殺した?どれくらい僕を殺した?全部君のせいだ」
「だから、そんなの知らないよ!!」
私は泣きながら叫んだ。
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