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Powder Snow(5)

[359]  一宮 詩音  2008-11-19投稿
「お父様は自分さえ良ければ、それでいいだけの人なんだわ!!」
「お前に何が分かる。私は...」
「そうよね。『世界中の人が愛する音楽のために』って言いたいんでしょう。で、自分の家族はほったらかし。お母様が心臓の手術をする時も『その音楽』のために帰っても来なかった。そして、今度は私の人生までお父様の思い通りにしようとしている!!」
「それじゃ、お前にとって、ヴァイオリンは何だったんだね。ただのお遊びだったのかね」
「いいえ。少なくともお父様がお母様を見捨てるまでは、私にとっても大切なものだったわ」
「それなら、私の言う通りに東京の音大へ...」
「イヤよ!! 私の人生よ。勝手に決めないで!!!」
 モネはそう大きな声で言って、その自分の声で目が覚めた。そして、自分が知らない部屋で寝ていることにビックリして飛び起きた。
「わ、私、どうなっちゃってるの?」
 と自分で自分に質問している。そして、ゆっくりと記憶をたぐって行く。
 そうだ。考え事をしながら歩道橋の階段を下りていて、足を踏み外して階段を転げ落ちたんだっけ。そして、前を歩いていた人の上になったにも関わらず、頭を思い切り打ったところまでは覚えている。その後、目の前が真っ暗になったのだ。
 じゃ、ここは病院? でもなさそう...。とモネは思い直した。見回すと10畳ほどの部屋にはダンボール箱がいくつも積まれていて、本棚などもあるが、まだ、1冊の本も置かれていない。つまり、ここは誰かの家の一室なのね。でも、誰の...?
 モネの心には不安がよぎり、急いで布団をはねのけると、ベッドから床へ足を下ろした。しかし足首の痛みでバランスを崩し、その場に倒れ込む。
「いたた...」
 足をさすると包帯が巻かれてある。それもきちんとした巻き方がされていて、自分が医療関係者に診てもらったらしいことは分かったものの、ここがどこか分からないことに変わりはない。
 とそこにノックもなしに1人の男性が入って来たので、モネは心臓が破裂しそうなほど驚いた。
「キャ、あなた、一体誰? 私に何をしようというの?」
 モネは両手を胸のところで交差させ、身をかばうように体を丸めて、無意識に叫んでいた。

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