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あいつの笑顔?

[196]  きむち  2008-12-07投稿
こんな作品のどこが面白いのか解らないが、ほとんど空席もなく満員だった。

僕たちは一番最後列の席に座った。

館内放送が流れる

【ただいまより、上映を開始します。携帯は電源をお切り頂くか、マナーモードの上、ご観賞くださいますようお願い致します。】

辺りが暗くなり出した。

僕は横目で彼女を見た。

映画の宣伝をポップコーンを片手に食い入る様に見ている。

しばらくして、字幕が流れ始めた。

二時間後、映画の上映は終わった。

終始、僕には訳が解らない内容だったが、彼女は泣いていた…。


「あー、すごく感動したよねっ。面白かったぁ」

「えっ、あっ、うん、そうだね…」

「もー、絶対に寝てたでしょー(笑)せっかく誘ってあげたのにぃ。」

「見てたんだけどなぁ、何か感動もんとかって、苦手なんだよね。」

「ふーん…そっかぁ(笑)じゃあ、そろそろ出よっか?」

涙でグシャグシャな顔を整える為に彼女は、トイレに入った。

外は雪がちらついている。
夜になると雪のせいもあってか風が一段と冷たく感じた。

「これって今年の初雪じゃない?」

「そうだなぁ、綺麗なもんだな。」

「今年ももうすぐ終わるね。来年も仲良く出来るといいよねぇ。じゃあ、あたし、寄るところがあるから!今日はありがとう。」

そういうと、彼女は背伸びをして、僕の唇にキスをした。

「またね。」

彼女は屈託のない満面の笑みを浮かべ、去っていった。

あれから数週間が過ぎた。その日を期に、彼女からのメールや電話はぷっつりと途絶えてしまった。

大学にも来ていない。心配になり、家に何度も足を運んでも、人の居る気配すらなかった。

「そういう事か…」

二年後、僕は大学を無事に卒業し、社会人になる。時が経ち、いつしか彼女の事も次第に忘れていった。

ある日、コンビニから帰る途中、面影のある顔に出くわした。

彼女には彼氏がいた。
彼氏に向けるその笑顔はあの日と同様に、僕に向けた屈託のない笑顔そのものだった。

僕は彼女が見せたあの時の涙の意味を理解し

「幸せになれよ」

そう呟き、空を仰いだ。

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