十字路とブルースと僕と俺 10
どうするべきか悩むおれに突然のタイムリミットがきてしまった。家の方からおれを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。最初に母の声が聞こえ、それに続いて父とやさしいおばあちゃんの声が聞こえてきた。振り返ってみるが誰の姿もまだ見えなかった。捻った首を元に戻してふたたび前方へ眼を向けると、そこには今だに男が椅子に座っていた。変わらぬ調子で凛とした音を出し、喜怒哀楽を全て兼ね備えた素晴らしい声音で唄っていた。
ぼくはその場からは動かずに前後を交互に見やった。みんなの声が次第に大きくなり、焦りの色をおびはじめていた。時間はもう無い。今に誰かがぼくを見つけ、安堵と憤怒がごちゃまぜになったような表情でぼくをこの場から引っ張って行ってしまうだろう。それにみんなにこの男が見えるか否かも気がかりだった。もし見えたとしたらみんなはどう思うのだろう。こんな所で唄を歌うあきらかに不審な人物にどんな態度を示すのだろう。一瞬、そんなことを頭の中で考えたが、すぐに思い返し、みんなに見えるわけがないと自答した。だって音すら聞こえないんだもの。姿が見えるわけがない。そうしてぼくは限りある時間に背中を押され、意を決して男へと真っ直ぐに歩みを進めた。
ぼくはその場からは動かずに前後を交互に見やった。みんなの声が次第に大きくなり、焦りの色をおびはじめていた。時間はもう無い。今に誰かがぼくを見つけ、安堵と憤怒がごちゃまぜになったような表情でぼくをこの場から引っ張って行ってしまうだろう。それにみんなにこの男が見えるか否かも気がかりだった。もし見えたとしたらみんなはどう思うのだろう。こんな所で唄を歌うあきらかに不審な人物にどんな態度を示すのだろう。一瞬、そんなことを頭の中で考えたが、すぐに思い返し、みんなに見えるわけがないと自答した。だって音すら聞こえないんだもの。姿が見えるわけがない。そうしてぼくは限りある時間に背中を押され、意を決して男へと真っ直ぐに歩みを進めた。
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