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黒髪の少年は?−1

[605]  2008-12-24投稿
草むら。
大人の腰くらいまであるその草は、容易に彼らの視界を奪った。
水の流れる音と、彼の楽しそうな声。
それに誘われて、彼は足を踏み出して走った。


「由宇君〜?由宇君ーー!?お返事はー!?」
ある日の朝の会。
出席をとっていたら由宇君の返事がない事に気付いた。
ちらっと美祢ちゃんの方を見ると、彼女は今日は一人で座っていた。
なぜだろう。
俯いて、暗い。
いつものかわいらしい笑顔が見るカゲもない。
由宇君は来ていないのだろうか。
今日は風邪か何かで来られないのだろうか。
連絡は来ていない。
「美祢ちゃん…由宇君は?」
美祢ちゃんは俯いたまま答えた。
「おにいちゃん…きたときはいたのに…」
…来た時は?という事は…今は…?
「…いなくなっちゃったの!?」
「うん…」
「………え…本当?」
「………うん」
「た…大変!!!」
思わず大きな声を出してしまい
、教室がざわついた。
少しだけしまったと思った。
よく考えればそんなに大変な事ではなかったからだ。
子供がいなくなるくらいいつもの事だ。
朝までいたなら保育園内にいるはずだ。それなら探せば良い。
慌てる事はない…。
「や…じゃあ先生、由宇君捜してくるから みんな静かにできるよね!?」
「はぁ〜い!」
みんな元気良く返事をする。
いやな予感がした。

さくら組から出てすぐ、剣土君が廊下を歩いていた。
まだ彼まで出席をとっていなかったので気付かなかった(荒井剣土君は転園なので番号は最後だったから)が、彼もいなかったのか。
「剣土君!?朝の会の時間だよ?さくら組に…」
とっさにさくら組へ行かせようと思ったが、ふと彼の悪い噂が頭に浮かんだ。
…いや。まさかね。
「…だってトイレいってたんだもん!」
嫌な思考をしている間に、彼は頬っぺたを膨らまして私の横を走り抜けた。
「待って剣土君!由宇君知らない!?」
あわてて聞くと剣土君は足を止めてこちらを振り返り、
「しらーん!」
と言うとまたかけて行った。
子供らしい、答えで。
多分本当だろう。
保育士をやっていれば、子供の虚偽くらい見抜けた。
(?まであります←注意)

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