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幸運の女神 11

[559]  朝倉令  2006-06-27投稿


「な〜んかさぁ、気になるよねェ…」


「え? ああ、例の時の回廊の事か」



スネアに肘をついたままのエリカ。


左手の指で器用にスティックを回しながら、「う〜ん」てな具合に考え込んでいる。


「今日、行ってみるか?
俺も何だか気になるしさ」



品川恵利花はニカッと笑顔を見せると、スティックをマッチドグリップ(ロック系の握り方)に変え、タムタムをいきなり連打した。




先年、帰らぬ人となった天才ドラマーのナンバーがなんの前触れもなく始まる。



バンド名の由来となった名曲《ザ・ラットラー》である。

(By/ COZY POWELL)



全身で叩き出す様な激しいビート。


迷いが晴れたエリカの気持ちがストレートに伝わってくる。


それは、突然食らった暴風雨にも似ていた。



逆らいがたい勢いに、メンバー全員が嵐の様なサウンドとシンクロしていった。







「お二人さん、お寄りになりませんか?」


「あたし達、行き先決まってますから。 ゴメンね〜」


「なァ、占い師にやたら呼び止められるよな。
エリカお前、変な電波出してるんじゃない?」


「あら、諒司くぅ〜ん、それはアナタじゃないかしら? ウフフ‥」


「…だから、店長の真似はやめろっちゅーに!」


「え?あたし何も言ってないよ」


「何だって?
あ、美和さん…… ど、ど、どうしてここに」



思いがけず、目の前にバイト先のファミレスの店長、手島美和の、ちょっと意地悪そうな笑顔があった。






「あら、そォお。
二人おそろいで青蘭に呼ばれた訳ね。
きっとタダ事じゃないわね、フフ」



お店の時とは違い、髪をおろして眼鏡をかけた美和は、普段よりも柔らかい雰囲気だった……が、語った内容は穏やかではない。



「え?それ、どういう事ですか」


「時の回廊に行けばわかるわよ。
 じゃあね、ウフフ…」




謎めいた言葉とほほ笑みを残して、手島美和は去っていった。






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