RPG−21
マストに上ると、陸にはなかった強い風に驚いた。なびく髪がユーラのあごをくすぐる。
太陽の光を浴びてキラキラ光る海は想像を超える美しさだった。見とれていたカナだったが、舵の近くにレイとタームが並んでいるのに気づいて不満げな顔をした。
ユーラの助けを借りて下に下りた。着地するときによろめいて、ユーラが腰に手をあててそれを支えた。慣れた仕草だなんてことはカナには分からない。
「あ、ありがとう」
医者や看護師に触られるなんてしょっちゅうだったが、こんなふうに触れられると恥ずかしい。カナはそっと顔を伏せた。
***
出航してしばらくすると、カナもレイもうつらうつらし始めていた。2人ともホテルに着いてからずっと寝ていなかった。
小さな汚い空き部屋をなんとか寝られるようにして、タームが2人を部屋に呼んだ。掃除したのは4人の少年たちだ。
「カナ。寝た?」
「ぎりぎり起きてる」
「船に乗るのさ、嫌だった?」
「うん?嫌じゃないよ?」
しばらく間が空いて、またレイが口を開いた。
「あたしさ、船で旅するのが夢だったんだ。山を歩くのも好きなんだけど、海が好きでさ」
「うん」
「本とか話でしか知らなかったんだけど、海にずっと憧れてた」
「うん」
「だから今、すごく良い夢見れそう」
カナがくすりと笑った。レイが本当に幸せそうに言うからだ。明日の夕方にはビヨドに着くらしいから、レイはきっと寝るのが惜しいと思ってる。
静かな寝息が聞こえて、カナはまた笑った。レイを愛しいと思った。
***
目が覚めたとき、丸い窓から見える空は赤かった。体内時計がおかしくなるなあと思い、次の瞬間にはそんな心配は吹き飛んだ。
タームがお腹をかかえて座り込んでいた。レイが怒りのオーラをまとってベッドの横に立っている。どう見てもレイがタームを殴った、という状況だ。
「普通はビンタとかじゃないの?」
「普通は女の部屋に入ったりしないよ」
「飯に呼ぼうと思ったんだって」
「ノックしろノック」
レイが言いながらタームを追い出した。カナが驚いたのは、レイとタームが仲良くなってるということだ。いつの間に。
油断できない、とカナが窓の向こうを通りすぎた影をちらりと見た。
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