○●純+粋な恋●?
2-? 春の陰
女の名は,階堂粋乃(いくの)と言う。
階堂家と言えば,ここらでは古くから続く名家として知られている。
その粋乃は,今日も桜並木の墓を訪れていた。
純は,今日も来ない。
『あ,姉さんこんなとこにいた!!』
粋乃の弟,拓和(たくお)は桜の木の陰からひょっこりと顔を出した。
『あっ!こら!書道教室はどうしたの?遅れたら,師匠が怒るわよ?』
粋乃は,この7才の幼い弟を優しく叱った。
『分かってるよぉ,もうすぐ行くもん。』
拓和はツンと口を尖らせた。しかし,何かを思い出した様に話し出す。
『昨日ね,教室の隣の家の猫かいたんだ!そっくりだって,師匠,ほめてくれたんだよ!』
よほど嬉しかったのか,拓和の目はキラキラと輝いている。
『あら,良かったわねぇ
その猫の絵,私も見たかった。』
拓和は聞くなり走り出した。
『じゃあ,今日かいてきてあげる!』
拓和は粋乃を見ていたので,桜の木の根に,足がつまずいた。
『拓和!ちゃんと前見て走りなさい!』
いったいどうしたら,前を見ずに走れるのだろうか。この歳の男の子は,やんちゃだ。
『わかってるって!
教室に遅れちゃうから,行ってきまーす!』
飛び跳ねるように,拓和は花びらの舞う桜並木を駆けて行った。
よほど教室が楽しいらしい。
粋乃は,
そんな弟の姿を心配そうに,いつまでも見送っていた。
●○続く○●
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