携帯小説!(PC版)

虫 5

[741]  KSKくま  2009-01-23投稿
この日私はやっと自分の立場を明確に理解しました。

私は患者ではなかったのです。
媒介者。
それが私の立場だったのです。言ってしまえば蚊やダニと同じ。私は隔離されるべき、疎まれる存在です。何一つ私の意思は尊重されない。
それは知ることに対しても同じです。患者であれば当然教えられるべき寄生虫のことでさえ教えてもらうことが叶わないのです。
私は確かに木村という医師に会い、その人物からわずかにそれを耳にしました。そんな私の記憶を丸ごと無きものにするために看護婦は目の前で彼の存在を滅殺したのです。

ただ私は時を過ごすだけの時間を送ることを余儀なくされたのです。

夕日に照らされた病室で私は奥歯を鳴らしました。それしか私にはできなかった。


再び夜が来た。気分がすぐれないときには悪いことを思い出すものです。
「最近寝付けない・・・」
私の婚約者は私に言いました。半月ほど前のことです。人間三十代が近くなるとそんなこともある。看護婦という仕事柄もあったのだろう。特別に変わったことではない。

しかし、「もし・・・」そう考えると私は不安な気持ちになりました。いえ、もっと正確な言い方をすれば、嫌悪感を抱きました。
この時私の頭の中には安置室にいる彼女の顔が浮かびました。あのほの暗い地下の明かりに浮かぶ彼女の無惨な横顔です。私の愛する人の体を食い荒らした虫。それが私の中にもいるかもしれない。そして今の私はそれに食われ始めるのを待っているかのようです。

彼女はどんな最期を遂げたのでしょうか?寄生虫の存在を彼女は知らなかったまま逝ったのでしょうか?苦しんだ時間が短かったことを願います。彼女が虫のことを知らなかったことを願います。
彼女の精神が虫によって汚されなかったことを、私は願います。

そう思いながら私は眠ろうとしました。しかし、夜は長く、虚ろな思いで目を閉じていました。
彼女の葬式にも出ることもままならない我が身を呪いながら・・・。

つづく・・・

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