○●純+粋な恋●?
4-? 夏の訪問者
『ただの風邪にしては随分長引きますね?』
粋乃は純に尋ねた。
純はこの前見舞いに来た粋乃達に,ただの風邪だと言っていたのだ。
『それにお痩せになりましたわ。』
純の目を粋乃は真っ直ぐに見た。純は心の中を見透かされているような気がして顔を背けた。
『本当の事を,話して下さい。』
不思議な静けさが辺りを包む。
夏の午後は,こんなに静かだっただろうか。
『私は‥』
純は重い口を開いた。
『私は,もうじきに死にます。』
呟く様に言ったが,粋乃にはそれがはっきりと聞こえた。
『死ぬ‥どうして?』
『死んだ母と,同じ病なんです。病だと気付いた時には,私にはもう,死ぬ道しか残されていなかった。』
『嫌だ!!』
粋乃は突然泣き出した。
『嫌です!!あなただけなんです,私を理解してくれたのは!』
粋乃の目から大粒の涙が落ちる。
『私,あなたと出会ったあの場所に何度も行きました。でもあなたは来ない。いつしか,あなたと出会ったあの日の事は,全て幻だったのではないかと思えて来たのです!』
純の胸が締め付けられた。自分はあれから一度も桜並木へ行っていない。
いくら病に倒れていたとは言え,申し訳が無いことをしたと,心から思った。
『あなたが全て幻だったのだと考えたら,この世界が,とても残酷に見えてきたんです。私はあなたの居ない世界で,
生きてゆく自信がありません!』
粋乃は両手を顔に当てて泣いた。
純は,しばらく黙っていたがやがて粋乃の手を取り,そっと自分の手を重ね言った。
『私は,
ここに居ますよ』
粋乃は涙で濡れた目で純を見た。
『いずれは死んで消えてしまうけど,それまで粋乃さんの世界に居続けます。だから,世界が残酷だなんて,言わないで下さい。』
粋乃は純と重ねられた手を見つめた。暖かい。
『好きです‥あなたが。ずいぶん昔から。』
震えた小さな声だった。
『ぇ‥?』
純は粋乃の意外な言葉に顔が熱くなるのが分かった。
●○続く○●
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