○●純+粋な恋●22
5-? 初秋の桜
細くなり棒の様になった腕が,静かに墨をする。
以前の様に純は筆を持った。
しかしどこかおかしい。
指先に力が入らない。
書こうとすると手が震えて筆が落ちる。
ー 私は,
ここまで衰えたか。
絶望だ。
幼い頃から書の天才と言われてきた純が筆を持てなくなるなど,
今までの人生が無になったのと同じ事だ。
純は筆を置いた。
ー 私の存在理由は一体何なのだろう。
書くことの出来なくなった純は,
いつしかそんな事を考えるようになっていた。
純が2度目の吐血をしたのはそんな時だ。
今回は精神的にも参っていたのかもしれない。
1度目の時の様に,すぐに純の目は覚めない。
京太郎は,
このまま純が目覚めないのではないかと気が気ではなかった。
純が目覚めたのは,2度目の吐血から3日後だった。
『良かった,
本当に良かった!』
京太郎は純の手を取り喜んだ。
純は,大袈裟だと京太郎に微笑んだが,すぐに深刻な顔をして言った。
『兄さん,粋乃さんを,
呼んで下さい。』
『粋乃さんを?』
京太郎は言われるがままに,粋乃を純の元へ呼んだ。
粋乃はすぐに来た。
髪が少し乱れている。
走って来たらしい。
考えてみれば,
純から粋乃を呼ぶのは初めての事だ。
『参りました。良かった,目覚めたのですね。』
粋乃は純の部屋の襖を勢いよく開けた。
粋乃には,
病で衰えた純が静かに微笑んでいるのが見える。
『では,邪魔者は消えるとしよう。』
と,京太郎は気をきかせて席を立った。
○●続く●○
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