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空と海 ?

[368]  内田俊章  2009-02-09投稿
 「ところで矢口さんは、この町に住んで、長いんですか?」
 富子は、純子が何を聞こうとしているか、分かった。そして、あえて嘘を言った。
 「いいえ、空の父親の転勤で、3年前にここへ来ました。この町に住むのは初めてです」
 「そうですか」
 「それが何か?」
 「実は私の父は、以前に中学校の先生をしていまして、私が小さい時に、桜町中学校に居たんです」
 「そうですか?それでは先生は、桜町小学校に通っていたんですか?」
 「ええ、居たとは言っても、私が2年生になる時に、父が転勤になり転校しましたので、1年生の1年間だけですけど」
 妙子が言っていた事は、事実の様だった。
 「そうでしたか」
 「25年ぶり位になるので、町並みが随分変わっていましたけど、やはり、住んだ事のある町は、懐かしいですね」
 「そうでしょうね」
 「実はこの間、名簿を見ていたら、空ちゃんのお父さんの名前が『海人』さんと知って、私が1年生の時に『海人』と言う同級生が居たものですから、その人かと思いました」
 「そうでしたか。『海人』と言う名前は、珍しいですけど、違う人みたいですね」
 富子は、あくまでも、シラを切った。今ここで、3人が同級生だったと言う事になると、何か、面倒な事が起こりそうな気がした。

 夜になり、海人が帰ってきた。
 「先生は、どんな話をしていた?」
 「空は、学校でも元気一杯だって!友達もたくさん出来て、仲良く遊んでいるらしいよ!」
 「それだけか?」
 海人は、同級生かどうかが、聞きたかった。
 「えっ?それだけかって?ああ、妙子さんが言っていた事?」
 「うん」
 「あの話は、違うみたいだね」
 「えっ!違うって?」
 「大空先生は、この町に住むのは、初めてなんだって!」
 「えっ、そうなのか?妙子は、間違いない様な事を言ってたけどな。写真まで持って来て、この人だって……」
 富子は、嘘をつくの大の苦手で、大嫌いであった。海人に、ばれてはいないかと、顔をまともに見る事が出来なかった。
 「ガッカリ、したかい?」
 「いや、別に」とは、言ったものの、海人は心の隅で、同級生であって欲しいとの、期待も思った。
 富子は、嘘はいけないと思いながらも、海人や空の事を考えると、これで良かったんだと、自分に言い聞かせた。
 妙子にも、二度とこの事を、話題にしない事を願った。

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