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大雪山縦走2008 「大雪山へ」(into the kamuimindara)壱

[357]  MOJO  2009-02-18投稿
「縦走は旅なんですよ」
下山を明日に控え、「大雪山」最後の夜を迎えた「ひさご沼避難小屋」で、その若い単独行者は言った。
「石狩岳」から「沼の原」を経て、やっと「ひさご沼」に辿り着いた彼の表情には、長い縦走の疲れと共に、満ち足りた笑顔が浮かんでいた。
幾つものピーク(頂上)を繋ぎ、稜線のブッシュ(藪)を掻き分け、数え切れない溜め息を漏らし、同じ位沢山の感動に頬を弛ませ、不安に打ち勝ち、孤独な夜を過ごし、辿り着いた沼の縁で出逢った単独行者同士。お互いの苦労を、言葉多くは語らないが通じ合うものを感じ、交わす笑顔には互いを讃え慰撫する穏やかさが漂っている。
「縦走は旅なんですよ」
彼の漏らした言葉を真意を解する自分も、また長い旅を経て此処へ辿り着いたのだ。
その旅の始まりは…5日前の表大雪の北端「愛山渓温泉」の、一晩降り続けた雨上がりの朝に遡る。


一週間分の食糧と装備の詰まったザックを背中に担ぎ上げると、そこで初めてスイッチが入った。
初めてのルートを歩く時の、不安と期待の入り混じった複雑な高揚感が、静まり返った早朝の森の奥深く続く登山道へ吸い込まれて行った。
「愛山渓温泉」から続く、雨滴をまとった濃い緑の匂い漂う濡れた登山道は、徐々に高度を上げて行った。
「三十三曲がり」と呼ばれる急斜面を、藪を漕ぎながらビショ濡れになって越えたところで、沢のように雨水が流れるルートに出た。殆ど川だ。殆ど渓流だ。膝まで水に浸かりながら遡行する。
徐々に広がり始めた青空の中に、白く浮き上がった「永山岳」へ向かうガレた稜線が飛び込んできた。
「沼の平」への分岐で藪漕ぎで濡れたTシャツを脱いで、初めての休憩だ。稜線から上った朝陽が眩しい。初めての眺望に興奮してか、寒さは感じないが、温度計は12℃を指している。体を冷やさないように乾いたTシャツに着替え、合羽を着て「沼の平」方面に向かう。
整備された木道が伸びる高層湿原帯に、幾つもの沼が点在している。斜め差す朝陽が背の低い草原を照らし、生まれたばかりの世界に影を作り始める。そんな自然の造形は、我々の想像力を容易く凌駕してしまう。
湿原帯を越えると登山道は「旭岳」を正面に見据えながら高度を緩やかに上げる。「裾合平」に広がる西側斜面に稜線の影が伸びると、立体感を増した「旭岳」が天に伸び上がるように存在感を主張し始めた。

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