私と彼と青いバス。
悲しみの向こうに青いバスが見えた。
窓から外を眺める内の一人と目が合う。
驚くほどに澄んだ瞳の色。
絶望や悲しみすべてを乗せて微笑むまつ毛。
――ああ、この人も、逝くのか。
青いバスは今にも走り出そうとしている。
太ったガイドのお姉さんが乗り込み口から叫んでいる。
誰か、他にお乗りになる方はいらっしゃいませんか?
青いバスの周囲に群がる人々。
落ちくぼんだ目で愛しそうにバスを眺めるけど。
一人、また一人と、バスに背を向け、歩き去ってゆく。
――ああ、まだ、生きようとするのか。
ついに青いバスの側には私一人。
私は動けなかった。
窓越しに見つめ合う彼は、どこか昔の友人によく似ていて。
ガイドのお姉さんは、ぽってりした赤い唇を笑みの形に彩ると、乗り込み口から身を乗り出し、私に手を差し伸べた。
さあ、逝きましょう。
私はその手を見つめた。
バスの中の彼は私を見つめていた。
彼は苦しげな表情を浮かべていた。
まるて何か言いたそうな顔で。
生きろと言うのか、死ねと言うのか。
違う。
彼はそんな事は言わなかった。
ただ、ただ「寂しい」と。
涙が頬を伝っていった。
私は首をふり、ガイドのお姉さんから後ずさった。
お姉さんの残念そうな表情。
その微かな、助言とも取れる囁き声。
馬鹿な子。青いバスに乗れば、もうそんな風に泣かなくてすむのに……。
お姉さんはバスに戻り、ドアがガシャンと閉められた。
私は彼を見上げた。
涙に揺らぐ視界でも、彼が笑ったのがわかった。
私も笑い返した。
青いバスは走り出す。
彼を乗せて。
彼以外の大勢の見知らぬ人々を乗せて。
視界から消え去るまで、私はそこに突っ立ったまま、青いバスを見つめていた。
彼がいなかったら、私は迷いなく青いバスに乗り込んでいただろう。
彼が私を止めてくれた。
こんな私に、時間をくれた。チャンスをくれた。
――また青いバスに出会うこともあるだろう。
だけど私は。
彼の表情を、瞳を、言葉を思い出して。
それに支えられて、生きてゆける。
ありがとう。
青いバスの彼に。
もう二度と同じ地面を踏むことのない彼に、静かにお礼を言って、私は泣き崩れた。
窓から外を眺める内の一人と目が合う。
驚くほどに澄んだ瞳の色。
絶望や悲しみすべてを乗せて微笑むまつ毛。
――ああ、この人も、逝くのか。
青いバスは今にも走り出そうとしている。
太ったガイドのお姉さんが乗り込み口から叫んでいる。
誰か、他にお乗りになる方はいらっしゃいませんか?
青いバスの周囲に群がる人々。
落ちくぼんだ目で愛しそうにバスを眺めるけど。
一人、また一人と、バスに背を向け、歩き去ってゆく。
――ああ、まだ、生きようとするのか。
ついに青いバスの側には私一人。
私は動けなかった。
窓越しに見つめ合う彼は、どこか昔の友人によく似ていて。
ガイドのお姉さんは、ぽってりした赤い唇を笑みの形に彩ると、乗り込み口から身を乗り出し、私に手を差し伸べた。
さあ、逝きましょう。
私はその手を見つめた。
バスの中の彼は私を見つめていた。
彼は苦しげな表情を浮かべていた。
まるて何か言いたそうな顔で。
生きろと言うのか、死ねと言うのか。
違う。
彼はそんな事は言わなかった。
ただ、ただ「寂しい」と。
涙が頬を伝っていった。
私は首をふり、ガイドのお姉さんから後ずさった。
お姉さんの残念そうな表情。
その微かな、助言とも取れる囁き声。
馬鹿な子。青いバスに乗れば、もうそんな風に泣かなくてすむのに……。
お姉さんはバスに戻り、ドアがガシャンと閉められた。
私は彼を見上げた。
涙に揺らぐ視界でも、彼が笑ったのがわかった。
私も笑い返した。
青いバスは走り出す。
彼を乗せて。
彼以外の大勢の見知らぬ人々を乗せて。
視界から消え去るまで、私はそこに突っ立ったまま、青いバスを見つめていた。
彼がいなかったら、私は迷いなく青いバスに乗り込んでいただろう。
彼が私を止めてくれた。
こんな私に、時間をくれた。チャンスをくれた。
――また青いバスに出会うこともあるだろう。
だけど私は。
彼の表情を、瞳を、言葉を思い出して。
それに支えられて、生きてゆける。
ありがとう。
青いバスの彼に。
もう二度と同じ地面を踏むことのない彼に、静かにお礼を言って、私は泣き崩れた。
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