暁の剣 4
はてさて、山田虎之助こと結城兵庫ノ介は、一体いかなる技を披露してくれるものやら……
「ありゃ?鉢巻きではのうて目隠しだったんかや!」
野次馬から素っ頓狂な声があがった通り、兵庫ノ介は茜色の鉢巻きで目を覆い隠し、白木の一枚板に描いた的の前に立ちはだかっていた。
「これよりお目に掛けるは、闇の山中にて獲物を仕留めるがため、それがしが苦心の末に編み出した技にござる。
首尾よう的に命中致したる時は、拍手願いたてまつる」
腰の帯から抜き取った手裏剣には、馬のしっぽの毛が貼りつけられていた。
根岸流の手裏剣である。
しっぽの毛が、矢羽根のように直進性を高める働きをする。
「しからば参る! 上手く当らばお慰み〜」
さいぜんとは打って変わって少々弱気な事を云いながら、兵庫ノ介はピピッと立て続けに手裏剣を飛ばす。
カンッ、キキキィーンッと鋭く連続音が響いた。
的の中心部目がけて飛んだ手裏剣は、一本が命中した後、二本目と三本目、四本目がその尻に次々当っていく。
まさに『神業』である。
やんやの喝采を浴びながら目隠しを外した結城兵庫ノ介は、猛禽(もうきん)の如き視力を見物の群れに走らせると、一人の武士に目を止めた。
数名の浪人者に取り巻かれた武士の、深網笠を押さえる左手の甲に大きな刀傷があった。
(奴に相違ござらんな…)
もろ手をあげて歓声に応えながら、兵庫ノ介の瞳が一瞬、イナズマの如き光芒を放つ。
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