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サクラ咲ク、青ノート、春の音。

[143]  速水さん  2009-03-12投稿
?〜キミと出会えたこと〜その10
「ねぇこの後、2次会いかない?アルコール入れて。」
どこかから始まったその誘いの言葉は、たくさんの小さな輪を通って私の耳にも届いた。
「咲、どうする?あたし、行こうと思うねん。咲もいこうやぁ。」
華ちゃんはそう言ったけど、私は何となく、帰りたかった。慣れないヒールで足もいたかったし、柳瀬翔平に近付く勇気もない。勇気もないから、堂々と近付く冬木塔子ちゃん達がうらやましかった。うらやましかったのに航太君に聞いた事実で、近付いてなくてよかったとほっとした。ほっとしたことで自分がすごく卑怯になった気がしたし、醜い気がした。自分はリングにたたずして、正々堂々戦った選手の負けをあざ笑ったかのような気になったのだ。本当は自分だって質問攻めにしたいくらいだったのだから。そんな気持ちが入り組んで、お酒を飲んでもいないのに何だかふらふらしてきてしまったのだ。
「ごめん、うち帰るわ〜。楽しんできてな。」
「そうなん〜。わかった。」
歓迎会は2時間弱でお開きになった。みんなでぞろぞろ陽明館を出て、教授陣と挨拶をして別れ、
「次2次会〇〇でやりまーす。」
とリーダーシップをとった誰かの声の方につられて行く者、2次会には参加せずに最寄り駅までそそくさと歩く者に別れた。
「じゃあ華ちゃん、楽しんでね。」
「うん、また明日ね。気つけて。」
華ちゃん達と別れて、歩みを進めると、少し先を航太君と柳瀬翔平が並んで歩いていた。
「あれ、早川さん2次会いかないの?」航太君が声をかけてくれる。
「うん。楽しんできてな。ばいばい。」
去り際にちらっと柳瀬翔平をみた。
こちらをみて軽く会釈して、「さよなら。」航太君と話していた子、くらいに顔は覚えてくれているのか。
「またね〜。」
背中ごしに航太君の声。足を速めた。

初めて柳瀬翔平を見た瞬間を思い出す。全身の血が逆流するかのような。いや、そんな激しい気持ちじゃない、もっと自然な。しばらく動けなかった。目をそらすことすらかなわなかった。一目ボレ。そんなの、自分には絶対ないと思っていた。もう確信していた。春のせいじゃなかった。それは咲き誇るサクラより、心に響く音だった。最初にかけられた言葉が、皮肉にも「さよなら」だという余韻を残して。4月1日。終わりの予感を伴いながら、すべてが始まる春だった。

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