携帯小説!(PC版)

[117]  カニカマ  2009-03-12投稿
雨は今日も降っている。
掌が濡れているのは、
力強く握っているからだろうか―――\r



彼女と会ったのは梅雨の季節だった。
僕の通う男子校の文化祭で、
一際目立つ制服姿で歩く彼女は、
突然僕に話しかけてきた。

―僕は、なぜか顔を見ることができなかった。
俯き加減の僕をを、生憎の雨が濡らした。
冷える体の中で、鼓動が高まる心臓だけが熱かった。

その日から、お互いにメールなんかするようになり、
一ヶ月後には
赤の他人から始まった関係とは思えないほど親密な仲となっていた。
手を繋いだり、プレゼントを買ったり、抱きあったり―――\r

ありふれた日常が鮮やかに染められていった。

ある夏の日、僕は俗に言う「ファーストキス」なるものを経験した。
初めて触れる他人の唇は、柔らかくて、温かくて―――\r

離れたくない。
ずっと、このままでいたい。

そんな言葉が脳裏をかすめたが、
生憎の空模様のせいで帰らなければならなかった。

―家路に就く僕を雨が濡らす。
高まる鼓動のせいか、びしょ濡れだと気付くのは母親に言われてからだった。

だが、恒久の幸せなど存在し得ない。
もうじき咲く桜のように、儚いかなこそ美しいのだ。

…彼女が大学に合格してしまった。
年上の彼女は、見事東京の大学に合格した。

嬉しかった。
確実に、嬉しかった。

ただ、悲しかった。
ありふれた日常が壊れるのは悲しかった。

相反する感情が渦巻くなかで、僕はあることを悟った。

「大切な人の幸せを喜べないやつが、幸せにできるのだろうか」
と。

行動はあまりにも速かった。
何かに操られているかのように。

合格の知らせを聞いた夜、
僕は彼女に別れを告げた。
彼女は理解できないと、すがりついてきた。

僕も理解できない。
理解したくないんだ。

ただ、それしか言葉が出なかった。

彼女が咽び泣く声が、夜の街に響く―\r

その言葉を残して、僕は家路に就いた。

―雨が、また降りだしてきた。
冷たい、雨だった。



凍える体の中で、
頬に一筋、体温に近い温もりの滴が、
ただ落ちていった。

今日も、雨は降るだろうか―

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