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からっぽの夏

[272]  ゅあ  2006-07-08投稿
ちぃ!
昔は叫んだら振り返ったのに、今はどこにいるのかさえ分からない。君どこに行った?
今年も暑くなるんだろう。雲が空を大きく覆う7月。ちぃは事故で記憶を無くした。ちぃは僕や自分を今まで育ててくれた親までも忘れてしまった。蝉の声がうるさく響く中にからっぽの僕とからっぽのちぃがいた。
「暑くない?」
「大丈夫よ」
8月。夏休み真っ最中の僕は宿題を持ってちぃの所に毎日来ていた。記憶のないちぃにとって僕がいるのは迷惑かもしれないしうざったいかもしれなかった。
重くのしかかった現実は僕を一人にさせるのを拒んだ。だからこそ僕は人といなければならなかった。それが例えちぃだとしても。
「ちぃ」
「ん?」
「去年僕ら約束したんだ。高校卒業したら旅行にいこう。」
「…」
「ダメ?」
「ん…ごめんなさい…」
「そっか…」
僕は気付いてしまった。ちぃが前のちぃとは別人だということに。ちぃからすれば初めて会った人に無理矢理会ってる心境なのだ。ちぃがこのまま記憶がないままだとしたらちぃにとって僕は消えて新しく僕より良い男が現れて、ちぃと一緒になる方が良いのかもしれない。僕がちぃといたいと思うのはちぃも同じだと思っていた。でも違うんだ。ちぃは僕を知らない。

「今日は帰るね」
「うん」
また明日ね、とは言わなかった。僕は足早に病室を出た。
雲が太陽にかかって、眩しい程あった太陽がいつのまにかどこにあるのか分からなくなった。僕は涙が流れてる事に気付いた。とめどなく溢れ止まらなかった。…どうか元気で。そう願うしか他なかった。

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