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月に纏わる

[179]  2009-03-12投稿
今夜は随分と月が奇麗ですね。昔と変わらぬ輝きです。今も昔も同じであるということは、なんと嬉しいものでしょう。ノスタルジィに浸るついでにひとつ、月に纏わるお話を紹介致しましょう。
この国の、とある著名な作家の話です。
彼はとても勉強熱心な方でしてね、欧州の国に西洋の文化やなんかを学ぶ為に留学をしたりしていました。そんな方でしたから、彼を慕い弟子になる人も多かったようです。
ある日、彼は弟子たちにこんな課題を出しました。課題と云うよりは只の問い掛けだったのかもしれません。
「あなたならI Love youと云う言葉をどのような日本語に訳しますか。」
弟子たちは困惑しました。I Love youと云う言葉にそれ以外の意味が有る筈が無いのです。故にその言葉が「愛している」以外の意味をもつことは在りません。「(貴方を愛しています)です。」
一人がそう答えると、二人目三人目も、異口同音にそれに続きました。結局、最後の一人まで誰一人として、他の言葉を口にする者はいませんでした。それに対して作家はこう応えました。
「私ならば、(今夜は月が奇麗ですね)と訳します。」
弟子たちはその言葉の真意が分かりませんでした。 話は変わって、作家の家庭について。彼はとても奥さんを大事にするということで有名でした。また、その奥さんも大変善い人で、彼を大切に思っていました。正しく理想の夫婦と云うものでしょう。
作家が病気で床に伏して暫く経った日のことです。彼は蒲団に横になった儘で、おもむろに呟きました。「今夜は月が奇麗だ。」
蒲団の中にいる彼には外の様子など伺える筈がありません。その上、その晩は雲が空を覆い、月を隠してしまっていました。
「どうしました。月なんて見えませんよ。」
奥さんは不思議に思って訊ねました。しかし彼は、今度こそはっきりと彼女に向かってこう言ったのでした。
「いいや。とても奇麗だ。」 それが彼の最期の言葉となりました。
奥さんがその言葉の意味を作家の弟子から聞いたのは、もう少し後の話です。 −作家の話は此れでおしまいです。昔は随分と粋な人が居たものですね。いえ、只自分の想ったことが伝えるのが苦手だっただけかもしれません。今となってはどうにも判りませんが。 では、それを踏まえたうえでもう一度云いましょうか。
「今夜は月が、奇麗ですね」

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