REC
両親が祖母の家に行くというので、家事のできない僕は、一ヶ月親戚の家に預けれられることになった。いとこの沙和も喜んでくれたし、わいわいしながら楽しく過ごせると思っていた。しかし、この後僕は思いもよらないほど切ない現実を垣間見る。沙和は僕が気づくといつもイヤホンをして聞き入っているテープがある。「いつも何聞いてるの?」僕が耳を指さしながら言うと、沙和は恥ずかしそうに小声で、「彼氏が私へ…ってカラオケで歌ってくれたの」と顔を赤くした。普通、録音までするか?と呆れながもら沙和からイヤホンを奪い取って聞いてみたが、CHEMISTRYの君を探してた。が、とても綺麗で魅力的な声で歌われていたので、お幸せにと笑って話は何気なく終わった。…沙和は彼の農家の手伝いをしていると叔母さんが言っていた。毎日朝から晩まで体力を使ってくたくただろうに、沙和は僕に対して笑顔を絶やしたことがない。「農業おもしろいよ。ちゃんと愛情かければすくすく育ってくれるし。」というので、からかって「愛情かける相手は野菜じゃなくて彼氏なんじゃないの?」と言ってみたら真っ赤になって怒りだして、「今、彼は北海道でじゃがいものお勉強中なんですっ!」とか言い出すから、なんなんだこのヘンテコカップルは…と思い、笑っていたらまた怒られた。しかし、そんな沙和もここ最近休みがちになり、とうとう部屋に引きこもるようになってしまった。体調不良ではなさそうだが、心配で仕方なくて「沙和?」と部屋のドアに向かって呼んでも返事がない。もう一週間顔を見ていないし、気になって仕方がなかったので叔母に事情を聞くと、「あちらで手伝いをしているうちにようやく理解したみたいね、あの子」というので僕は恐る恐る聞いていたが、その後続いた言葉に血の気が引いた僕は、叔母の話もそこそこに沙和の部屋に駆け込んでいった。「沙和っ!」沙和はイヤホンをつけたままぼんやりと向けていた視線を窓の外から僕に向けた。「この前調子に乗ってお幸せにとか言ってごめん。こんなこと…知らなかったから…」泣き出しそうな僕を少しのぞき込んだ沙和は、何も言わず、ふっと微笑んでまた窓の外に視線を戻し、幸せだったあの頃の夢の世界に戻って行った。後に聞いた話では、沙和がこのテープを放さなくなったのは、帰省の際に飛行機事故に遭った、愛しい彼の告別式の日以来だという。
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