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猫の手 手帖

[741]  猫の気持ち  2009-03-23投稿
誰だ!「猫の手を借りたいほど忙しい」とほざいている者は!
いやはや、いきなり割り込んでは苦情申し立てを騒ぎたてた吾輩のご無礼、誠に反省の一言にござる。
遅れながらも自己紹介のほど申し上げれば、吾輩には漱石さんにお世話になっておった猫と同様、名前はまだない。どこで生まれたかも見当つかぬが、ひよっとしたら漱石さんの猫の一族に属しているのではないかと時々感じてきている。
さていざ冷静さを取り戻し本題に戻ってみると、この世界同時不況とやらの影響か、かの吾輩の暢気さを揶揄されてきた方々の中には、さほどこれと言ってやることもない癖に、よくも堂々と言うか何と言うか、すまし顔なんかで過ごせるもんかと、少々軽蔑の雰囲気が残されているのだが、いままでとはちがった視線で見直されてきた。いや本当、さほど気にしていなかったが、改めて自分の長所に気づかされた。
それはそうと、いつしか「前向き」とかが騒がれ始めた頃の話、吾輩も時流に乗り遅れたらならぬと、一時間前の吾輩の一掻きによる鼠捕獲といった大手柄、一日前の魚をくわえた故のサザエさんによる追いかけ事件、強いては三十年ほど前のナメ猫ブームに、百年前の漱石さん再読と、誰にも負けちゃならぬと前へ前へと歴史研究に没頭した。
そんなある日、ふと横を向くと誰もおらぬ。吾輩の頑張りが先頭に立つ結果になったと思いつつ、後ろを見るとみんなの背中が見えるだけだ。全く前向きの時代なのに暢気な奴らだと観察していると、彼らは日が昇る方向へ進んでいて、どうやら彼らから見ると吾輩の方が後ろ向きに映るらしい。
なるほど、そんな事情もあってか、今の御時世「前向き」にお疲れのみなさんのためにも、今の自分がいることの再確認といった前向きもあるぞと、招き猫が布教活動中である。

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