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子供のセカイ。3

[468]  アンヌ  2009-03-24投稿
昼休み。
坂下小学校の校庭はにぎやかな声に満ちていた。
美香はただ一人、誰もいない大きな鉄棒に寄りかかって、グラウンドで遊ぶ三年生のグループを眺めていた。
舞子を見つけるのは容易かった。みんなについて行こうと、必死で友達に話しかけてはにこにこしている、桜色の頬をした女の子だ。円陣バレーをしているのだが、すぐにドジをしてはみんなに笑われている。
「よォ。」
不意に声を掛けられ、美香はびくっとしてそちらを見た。
幼なじみの耕太だった。
「何してるんだよ?」
「……あんたには関係ないでしょ。」
美香は不機嫌そうに舞子の方に首を戻した。
「……その二の腕の傷、」
包帯を巻いてある腕に触られそうになって、美香はパシッと耕太の手を払いのけた。
「また舞子にやられたのか?」
「舞子は何もしてないわ。」
「でも舞子が作り出した“子供のセカイ”のせいなんだろ?今度は何を出した?トラにでも引っ掛かれたか?」
普段はおちゃらけたキャラで通っているくせに、こういう時はやけに深刻な表情で聞いてくる。
美香は淡々と答えた。
「昨日出したのはライオンと大きな蛇よ。蛇の牙にやられたの。」
「おまっ、ど、毒とかは…!?」
「平気。そんな症状出なかったし。」
美香はこちらを見向きもしなかった。

耕太は黙り込んだ。

――以前の美香はこうじゃなかった。頭がよくて運動もできて、その上綺麗な容姿に優しい性格。誰もが憧れ、いつも人の輪の中心にいるような少女だった。
しかし美香は変わった。原因は舞子。舞子が持つ特別な能力を知り、妹を守るという使命が生まれてから、美香は感情を殺したようにめっきり笑わなくった。人との交わりも避けるようになった。
もっとも、そうしなければとても恐ろしい“子供のセカイ”にたちうちできないからだろう。……美香は妹のために、自分の生活を捨てたのだ。

それなのに舞子は――。
耕太は、笑ってボールを取りに走り出した舞子を暗い目で見つめた。
舞子はちっともわかっていない。姉が自分のためにどんな犠牲を払っているのか。まだ小学三年生とはいえ、いくらなんでもわがままがすぎる。
こんなに我慢して戦っている美香だって、まだ小学六年生なのだ。

……まあ、オレが支えるけど。

そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

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