暁の剣 6
虚空から河西陣十郎目がけ、悪鬼の形相で斬撃を繰り出す山田虎之助、こと結城兵庫ノ介。
着流しの浪人、河西は驚愕に目をひん剥いたきり、カチンコチンに硬直していた。
「キエエェェーイッ!!」
烈帛の気合いを伴い、真っ向から振り下ろされた陣太刀は、河西の体スレスレを刃風と共にかすめ去っていく。
「デヤアアアァーッ!!」
掛け声も凄まじく、地に降り立つやいなや全身をつむじ風の様に旋回させ、縦横無尽に陣太刀を奮う兵庫ノ介。
その気合いは、聴くものの心胆を寒からしめるものであった。
まさに、戦場の雄叫び(おたけび)そのものである。
『物干しざおもかくや』という程の長大な刀身が、銀光の尾を引きながら、生きものの如く自在に宙を走る。
やがて、動きを止めた兵庫ノ介は、伍助の差し出す鞘(さや)に陣太刀を静かに収めていく。
ややあって、河西の体からハラリハラリと着物の細片が四方に散り、風に吹かれて飛んでいった。
「やややっ!越中(えっちゅう)のお人にござったかや。
これは重ね重ねご無礼をば致した」
越中名物の〈赤ふんどし〉一丁にされた浪人、河西陣十郎は、平身低頭して詫びる兵庫ノ介をボーッと眺めている。
その直後、爆発的に起こった拍手喝采にもまるで無反応であった。
(ちと、お遊びが過ぎ申し たな……)
平謝りしながら、兵庫ノ介は義理の兄、立川右京と暴れ回っていた若かりし頃のおのれを思い浮かべ、苦笑していた。
悪ノリするのも、数年振りの事である。
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