十字路とブルースと僕と俺 29
外の世界は見渡す限りの雪景色だった。家も車も木も道も山も、すべてが真白にデコレーションされていた。雲間からの真冬の陽射しが燦々と雪面に降り注ぎ、そこら中を惜し気もなくきらきらとかがやかせていた。
おれと祖母はホコリっぽくひえびえとする物置部屋にいた。足の感覚が麻痺しそうなほど室内の木床は冷たく、開け放たれたままの扉のほうからは陽射しひとつ入ってはこなかった。室内にある唯一のガラス窓は磨りガラスになっていて、外のうつくしい雪景色をのぞむこともできないし、陽の光だってごくわずかなほどしか感じられなかった。
「よかったらそれ持っていっていいのよ」と祖母が言った。「どうせここに置いておいても誰も使わないし、ギターじゃなくたって楽器ひけるような人はいないからね。随分と傷んでるみたいだけど、まだつかえるんだったら持っていって」
「マジで。…イヤ整備すれば全然ひけると思うけど…」とギターを片手に持ちながらすっくと立ちあがり、おれは言った。「大事なもんなのに…おれが持ってちゃっていいの?貰えるんならおれはすごい嬉しいけど…」
「おじいちゃんもそうしてくれたほうが喜ぶとおもうよ。こんな狭苦しい部屋に閉じ込められてダンボールの下敷きになってるより、孫がつかってくれたほうが幸せってものでしょう?おじいちゃんにとってもこのギターにとってもね」とギターに微笑みかけるように祖母は言った。
おれは右手に持ったままのギターをちらりと見て「…うん。じゃあ…貰ってくね。絶対大事にするから」と、そう祖母に宣言するように言って人の手首のようなギターのネックを強く握りしめた。
この日見渡す限りに積もった雪は、たった半日ほどでその姿をほとんど消してしまった。
おれと祖母はホコリっぽくひえびえとする物置部屋にいた。足の感覚が麻痺しそうなほど室内の木床は冷たく、開け放たれたままの扉のほうからは陽射しひとつ入ってはこなかった。室内にある唯一のガラス窓は磨りガラスになっていて、外のうつくしい雪景色をのぞむこともできないし、陽の光だってごくわずかなほどしか感じられなかった。
「よかったらそれ持っていっていいのよ」と祖母が言った。「どうせここに置いておいても誰も使わないし、ギターじゃなくたって楽器ひけるような人はいないからね。随分と傷んでるみたいだけど、まだつかえるんだったら持っていって」
「マジで。…イヤ整備すれば全然ひけると思うけど…」とギターを片手に持ちながらすっくと立ちあがり、おれは言った。「大事なもんなのに…おれが持ってちゃっていいの?貰えるんならおれはすごい嬉しいけど…」
「おじいちゃんもそうしてくれたほうが喜ぶとおもうよ。こんな狭苦しい部屋に閉じ込められてダンボールの下敷きになってるより、孫がつかってくれたほうが幸せってものでしょう?おじいちゃんにとってもこのギターにとってもね」とギターに微笑みかけるように祖母は言った。
おれは右手に持ったままのギターをちらりと見て「…うん。じゃあ…貰ってくね。絶対大事にするから」と、そう祖母に宣言するように言って人の手首のようなギターのネックを強く握りしめた。
この日見渡す限りに積もった雪は、たった半日ほどでその姿をほとんど消してしまった。
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