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猫の手12 ハナミズキ

[802]  猫の視線  2009-04-03投稿
ふと思い起こせば、小難しくも暮らして行くには、ちと荷が重すぎる、そんな訳も分からぬ数々のご意見並べ参ったこの吾輩である。まあ時にはそれを記すも良しとして、結局はしみじみとする吾輩でもある。ただ気になるは、あまりにも人と違った意見を物申せば、それに合わさり果てない波も自然と高まり、生きづらい浮き世にある。漱石さんの言葉を借りれば、「とかくこの世は住みづらい」である。

一つこれからの吾輩は、少々早めのハナミズキの蕾とは言え、それを波際にそっと置いたので、そろそろ「角たてず、流されず、窮屈でない」普段の生活へと戻りたい。また、もともとの猫という素性で充分とは思えるが、念のため、更なるの猫でも被って暮らして行くつもりだ。

今後の抱負はともかく、今年の冬ときたら、それはもう大変であった。例年にない寒さだったらしく、吾輩としたら、いくらかでも寒さが緩んだ隙を見ては、散歩に出掛けたもんだった。その際、隣の娘さんの家の人の出入りがいつもと違っているのが感じられ、こちらとしては近くを過ぎるも軽快なピアノ伴奏の下、ウッカリ踏まれちゃならぬと、精一杯の緊張をせざるおえなかった。全く折角のストレス解消も台無しだった。勿論今ではそんな忙しさもすっかり静まりかえって、いつも通りの散歩が戻って来ている。

また最近、娘さんを見ないなという関心から普段はしない聞き耳を立てた情報収集に専念すると、どうやら隣の娘さんは遠くへと嫁いで行ったと言うことらしい。かの娘さんも、いざと言う時には、吾輩にも負けぬ理屈好きだったらしく、当の婚礼の際には上手に角が隠くれていたかどうかが、今さらながら気にもなる。思えば、居なくなる前日の最後の出会いでは、吾輩を抱き上げてはしげしげと、こちらを見ていたような気もする。

いずれにせよ、こうして吾輩を見つめる見慣れた視線が、知らぬ間に一つ減った訳だが、依然とまだ数々の視線に見守られている。そしてまた、そろそろ今年も、お天道様のあたる縁側で体を丸めるに丁度よい、光のどけき春の日がやって来る。





どうか果てない波が止まり

君と好きな人達が百年続く姿

いつか猫の瞳に映りますように

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