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子供のセカイ 6

[430]  アンヌ  2009-04-10投稿
耕太は意外にしっかりしていた。自分が覇王に敵わないことをちゃんと理解した上で戦いに望んでいたのだ。
本来の目的を見失っていなかった。
「美香!今のうちに早く行け!」
覇王の剣技をすれすれの所で避けながら耕太が叫ぶ。美香はびっくりして耕太を見つめたが、すぐに頷いた。
「わかったわ!耕太、これっ!」
先ほど盾を想像した小石を放り投げる。耕太はパシリと石をつかむと、
「くらえ!」
と、石をどろどろに溶けた大きな溶岩の塊に変えて覇王に投げつけた。
覇王が舌打ちと共に大きく避けた隙を狙って、美香はその横を走り抜けた。舞子の想像と違い現実にはならないので、平気で飛び散るマグマの中を走って行く。
「こしゃくな真似を…。」
小さくなっていく美香の背中を忌々しそうに見ながら覇王が呟いた。
「へっ。お前なんかオレ一人で十分だぜ!」
「そうか。ならばお前を殺し、それから舞子の姉を追うことにしようか。」
あまりにもよどみのない口調でさらりと言われ、耕太は内心ドキッとした。舞子の“子供のセカイ”は現実になる――。当たり前すぎる現実が、今更になって胸に突きつけられてゾッとなった。
覇王は歪んだ笑みを浮かべながら耕太を見すえる。
「さあ、どうやって殺してやろうか……?」

* * *

「ハァ…、ハァ……あ!」
ようやく石段を登りきり、朱色のはげかけた鳥居の下で息をついた時、美香は五メートルほど先の賽銭箱の前で舞子が立っているのに気づいた。
「まい……」
ほっとして名前を呼びかけ、美香はギクリと動きを止める。
舞子の前には、黒い靄のようなものが一面に広がっていた。それは今まで見たどの“子供のセカイ”よりも強力で、まがまがしく、負の気配に満ちている……。
舞子はゆっくりと振り返った。その恍惚とした表情、小学三年生とは思えない、あまりに大人びた顔に、美香は戦慄を覚えた。
「一足遅かったね、お姉ちゃん。」
舞子は可愛らしくにこりと笑う。その左足はすでに黒い靄の中に埋もれていた。
美香は舞子が何をしようとしているのか唐突にわかった。
「だめっ、舞子――!」
舞子はにたり、と笑って、美香に背を向け、闇の中に吸い込まれるようにして消えていった……。

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