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思い出の足跡(36)

[592]  優風  2009-04-21投稿
・「あの時チョコをもらえて本当に嬉しかったよ。おまけに手紙のメッセージつきでさ」

そう言うと美香はほくそ笑みながら、

「喜んでもらえて良かった」
と、嬉しそうな顔をして言った。

「俺、美香には嫌われてるとばかり思っていたからさ。まさかもらえるなんてこれっぽっちも考えてなかったよ」
「あたしだって貴士君にはずっと嫌われてるとばかり思ってたからチョコを渡しても“いらない”って言われるんじゃないかって思いながらドキドキして渡したんだよ」

いつもの調子だっから同情で渡してきたのだろうと受け止めていた僕は今、その話しを聞いて改めてその時の美香の心情を初めて知った。

「緊張感があるようには全然見えなかったよ。誰からももらってなくて黄昏てるみたいだって言ってたし」
「あれは照れ隠しだよ。それからあの後、貴士君があたしを追って来た時は絶対返品だって思った」
「甘い物好きな俺がチョコをもらって返品なんかするはずないよ。それに実際、美香がくれてなかったらあの年は誰からももらえてなかったよ。やっぱり小学校最後の年だから皆、本命だけに渡すだろうって思ってたら案の定だし。事実、クラスの女子からは義理チョコもなかったよ。美香はちゃんと本命の人にあげれた?」

僕がそう聞くとうつむきながら“渡したよ”と言った。
「あっ本当。相手の人は喜んでた?」
「喜んで…くれたみたい」
「なら、良かったじゃん。その本命って誰?確か“和典”とか人気があったみたいだけど美香も和典の事が好きだったの?」

そう聞くと美香はうつむいて返答に困って言葉を探してる感じに見えた。

「どったの?」

と、僕が聞くと顔を上げて、

「あたし、チョコは貴士君にしかやってないよ」

と、真摯な面持ちで言った。僕は驚いて一瞬言葉を失った。暗闇の中だったが美香の顔が紅潮してるのがなんとなく分かった。

「俺が本命だったって事?」
美香は黙って頷いた。

「えっ、なんで俺なんかを?」
「分かんないよ。気づいたら好きになってたんだもん」
「俺、美香から嫌われてると思ってたからそんな風に想われていたなんて思ってもみなかった」
「本当に嫌いなら手紙つきでチョコなんて渡さないわよ。いつ頃かな。よく覚えてないけどいつの間にか好きになってた。頼りなかったけど班長として皆をまとめようと頑張ってる姿に心打たれたのかな」

美香の話しを聞いて僕は驚きという衝撃にかられた。

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