十字路とブルースと僕と俺 33
師匠となる"奴"が初めて此処に姿を現したのは、青葉の香り漂う初夏の事だった。
6月にしては気温が高く、ジリジリとした太陽の日差しが肌をヒリヒリと焦がすほどの暑さだった。清々しい空気と苦々しい煙草の煙をからだいっぱいに取り込み、一段落した農作業を一時中断して、至福の一服を楽しんでいる真っ最中の事だった。
晴れ渡った大空を我が物顔で鷹が飛び回っていた。遅生まれのハルゼミが松林でゲーゲーと鳴いていた。いつもと変わらぬ光景がそこにはあった。
たった一人を除いては…。
おれのいる畑から300mほど離れた四辻に見慣れぬ男が立っていた。結婚式にでも出席するような暑苦しい格好で、肌はえらく日に焼けているように見えた。おれと奴は自然と目と目が合い、どちらも声をかけようとはせずにしばらく見つめ合っていた。今になって考えれば、日本語を喋れない"奴"が声をかけられないのは当たり前の事だった。おれはというと、折角の至福の時を邪魔されたくないという自分勝手な思惑と、少なからず違和感を感じる奴の佇まいに疑いの目を向けていたのだった。
先に動きをみせたのは向こうの方だった。300m先のおれでもはっきりと見えるほどのやけに大きな右手を天高くかざし、長い腕をしならせるようにブンブンと振ってきた。おれは戸惑いを感じながらもそれに応えるようにすっかり短くなった煙草を親指と人差し指につまみ、その手を力無く奴へとかざした。
6月にしては気温が高く、ジリジリとした太陽の日差しが肌をヒリヒリと焦がすほどの暑さだった。清々しい空気と苦々しい煙草の煙をからだいっぱいに取り込み、一段落した農作業を一時中断して、至福の一服を楽しんでいる真っ最中の事だった。
晴れ渡った大空を我が物顔で鷹が飛び回っていた。遅生まれのハルゼミが松林でゲーゲーと鳴いていた。いつもと変わらぬ光景がそこにはあった。
たった一人を除いては…。
おれのいる畑から300mほど離れた四辻に見慣れぬ男が立っていた。結婚式にでも出席するような暑苦しい格好で、肌はえらく日に焼けているように見えた。おれと奴は自然と目と目が合い、どちらも声をかけようとはせずにしばらく見つめ合っていた。今になって考えれば、日本語を喋れない"奴"が声をかけられないのは当たり前の事だった。おれはというと、折角の至福の時を邪魔されたくないという自分勝手な思惑と、少なからず違和感を感じる奴の佇まいに疑いの目を向けていたのだった。
先に動きをみせたのは向こうの方だった。300m先のおれでもはっきりと見えるほどのやけに大きな右手を天高くかざし、長い腕をしならせるようにブンブンと振ってきた。おれは戸惑いを感じながらもそれに応えるようにすっかり短くなった煙草を親指と人差し指につまみ、その手を力無く奴へとかざした。
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